目次へ  縦書き

歌稿A〔明治44年1月〕


み裾野は雲低く垂れすゞらんの白き花さきはなち駒あり
 

這ひ松の青くつらなる山上のたひらにそらよいましらみゆく
 

さすらひの楽師は町のはづれにてまなこむなしくけしの茎噛む
 

冬となりてうれみな黒む山上に夕陽をあびて白き家建てり
 

ふしてありし丘にちらばる白き花そらのひかりに見し黎明よ
 

ひがしぞらかゞやきませど丘はなほうめばちさうの夢をたもちつ
 

中尊寺青葉に曇る夕暮のそらふるはして青き鐘なる
 

桃青の夏草の碑はみな月の青き反射のなかにねむりき
 
11
河岸の杉のならびはふくらうの声に覚ゆるなつかしさもつ
 
12
とろとろと甘き火をたきまよなかのみ山の谷にひとりうたひぬ
 
13
龍王をまつる黄の旗紅の旗行者火わたる日のはれぞらよ
 
14
楽手らのひるはさびしき一瓶の酒をわかちて銀笛をふく
 
15
たいまつの火に見るときは木のみどり岩のさまさへたゞならずして
 
16
雲垂れし裾野のよるはたいまつに人をしたひて野馬はせくる
 
17
そらいろのへびを見しこそかなしけれ学校の春の遠足なりしが
 
18
そら耳かいと爽かに金鈴のひゞきを聞きぬしぐれする山
 
19
瞑すれば灰色の家丘にたてりさてもさびしき丘に木もなし
 
20
川ぞひの山のはざまにちらばれる村やさびしき田に植ゆる粟
 
21
やうやくに漆赤らむ丘の辺に奇しき服つけし人にあひけり
 
22
あはれ見よ月光うつる山の雪は若き貴人の死蝋に似ずや