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郊外

卑しくひかる乱雲が
ときどき凍つた雨をおとし
野原は寒くあかるくて
水路もゆらぎ
穂のない粟の塔も消される
 鷹はうろこを片映えさせて
 まひるの雲の下底かていぎり
 ひとはちぎれた海藻を着て
 煮られた塩のさかなをおもふ
西はうづまく風の底
紅くたゞれた錦の皺を
つぎつぎ伸びたりつまづいたり
乱積雲のわびしい影が
まなこのかぎり南へ移り
山の向ふの秋田のそらは
かすかに白い雲の髪
 毬をかゞげた二本杉
 七庚申の石の塚
たちまち山の襞いちめんを
霧がむらに燃えたてば
江釣子森の松むらばかり
黒々として融け残り
人はむなしい幽霊写真
たゞぼんやりと風を見送る


掲載誌「現代日本詩集(1933年版)」(1933年4月1日)
関連作品:「春と修羅 第二集」の「三二四 郊外」