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早春独白

黒髪もぬれ荷縄になはもぬれて
やうやくあなたが車室に来れば
ひるの電燈は雪ぞらにつき
窓のガラスはわんやり湯気に曇ります
 ……青じろい磐のあかりと
   暗んで過ぎるひばのむら……
根もとの紅い萱でつくつた木炭すみすごを
もう百枚もせなに負ひ
山の襞もけぶつて並び
堰堤だむもごうごう激してゐる
岩岨道のみぞれのなかを
凍えて赤い両手を頬で暖めながら
この町行きの貨物列車にかけて来て
あなたはわづかに乗つたのでした
 ……雨はすきとほつてまつすぐに降り
   雪はしづかに舞ひおりる
   あやしい春のみぞれです……
みぞれにぬれてつつましやかにあなたが立てば
ひるの電燈は雪ぞらに燃え
ぼんやり曇る窓のこつちで
あなたは赤い捺染〔なつせん〕ネルの一きれを
エヂプト風にかつぎにします
 ……氷期ひやうきの巨きな吹雪のすゑ
   ときどき町の瓦斯燈を侵して
   その住民を沈静にした……
わたくしの黒いしやつぽから
つめたくあかるい雫が降り
どんよりよどんだ雪ぐもの下に
黄いろなあかりを点じながら
電車はいつさんにはしります


掲載誌「岩手詩集」第一輯(1932年4月15日)
関連作品:「春と修羅 第二集」の「二五 早春独白」