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氷質のジョウ談

職員諸兄 学校がもうサマルカンドに移ってますぞ
杉の林がペルシャなつめに変ってしまひ
花壇も藪もはたけもみんな喪くなって
そこらはいちめん氷凍された砂けむりです。
白淵先生北緯三十九度あたりまで
アラビア魔神がはたらくことになったのに
大本山からなんにもお振れがなかったのですか
さっきわれわれが教室から帰ったときは
そこらは賑やかな空気の祭
青くかがやく天の椀から
ねむや鵞鳥の花も胸毛も降ってゐました
それがいまみな あの高さまで昇華して
ぎらぎらひかって澱んだのです
えゝ さうなんです
もしわたくしが管長ならば
こんなときこそ布教使がたを
みんな巨きな駱駝に乗せて
あのほのじろくあえかな霧のイリデスセンス
蛋白石のけむりのなかに
もうどこまでもだしてやります
そんな砂漠の漂ふ巨きな虚像のなかを
あるひはひとり
あるひは兵士や隊商連の仲間に入れて
熱く息づくらくだのせなの革嚢に
氷のコロナと世界の痛苦をいっぱいに詰め
極地の海に堅く封じて沈めることを命じます
そしたらたぶんそれは強力なイリドスミンの龍に変って
地球一ぱいはげしい雹を降らすでせう
そのときわたくし管長は
東京の中本山の玻璃閣で
二人の侍者に香炉と白い百合の花とを捧げさせ
空を仰いでごくおもむろに
二行の迦陀をつくります
いや新聞記者がやってきました


掲載誌「銅鑼」第十三号(1927年2月21日)
関連作品:「春と修羅 第二集」の「四〇一 氷質の冗談」