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奏鳴的四一九

これは吹雪ふぶきうつしたる
硼砂ほうさの嵐 Rap Norラプノール)の幻燈げんたうでございます
まばゆい流沙るさ蜃気楼しんきらうでございます
この地方では吹雪はこんなに甘くあたたかくて
恋人こひびとのやうにみんなの胸をせつなくいたします
雲もぎらぎらにちぢれ
木が幻照げんしゃうのなかからえたつとき
ひるがへったり砕けたり或はまった空明くうめいを示したり
吹雪はかがやく流沙るさのごとくに
地平ちへいはるかにうつり行きます
それはあやしい火にさへなって
ひとびとの視官しくわん眩惑げんわくいたします
あるは燃えあがるボヘミヤの玻璃はり
すさまじき光と風との奏鳴者さうめいしゃ
そも氷片ひゃうへんにまた趨光すうくわうせいあるか
はた白金はくきんきょくもとむる泳動えいどう
(そらのフラスコ)四万アールの散乱質さんらんしつ
めぐ日脚ひあしに従って地平ちへいはるかにうつり行きます
その風の脚
まばゆくまぶしい光のなかを
スキップのかたちをなして一人ひとりの黒い影が来れば
いまや日は乱雲らんうんに落ち
そのへりははげしい鏡を示します


掲載誌「盛岡中学校校友会雑誌」(1927年12月21日)
関連作品:「春と修羅 第二集」の「四一九 奏鳴的説明」