目次へ  縦書き

陸中国挿秧之図

ラルゴや青い雲翁やながれ
玉髄焦げて盛りあがり
風は苗代の緑の氈と
はんの木の葉を輝やかし
桐の花も咲き
まるめろやりんごの鴇いろも燃える野原
馬もゆききし
ひともうつつにうごいてゐる
  つらなるもの
  あやしく踊り惑むもの
  あるいは青い蘿をまとうもの
馬は水けむりをひからかせ
こどもはマオリの呪神のやうに
小手をかざしてはねあがる
   ……あまづつぱい風の脚
     あまづつぱいかぜの呪言……
鳥は林で銀やガラスやあらゆる穀粒を撒きちらし
畦畔はかびらこの花きむぽうげ
   ……山脈のいちいちの襞と縞とに
     まっ白な霧の火むらが燃えあがる……
かくこうもしばらくうたひやみ
ひともつかれてはゼラチンの菓子とかんがへ
水をぬるんだスープとおもひ
たくさんの黄金のラムプが
畔で光を発射するとおもひながら
もうひとまはり代を掻く
    ……たてがみを残りの夕陽に乱す馬
      こっちはやすみの
      うなじをたれて草を食ふ馬……
檜葉かげろへば
赤楊の樹 銅のかがみを吊し
人はメフェストフェレス気取で
黒い衣裳の手をひろげ
夕陽の中に燐酸をまく
   ……影とコムパス
     せはしく光るゼラチン盤……
雲の羊毛にたちまち縮れて日をかくし
また行きすぎれば青々くらむ松並木


掲載誌「無名作家」第二巻第四号(1926年1月1日)
関連作品:「春と修羅 第二集」の「三四五 〔Largoや青い雲かげ流れ〕」