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「ジャズ」夏のはなしです

ぎざぎざの班糲岩の岨づたひ
膠質のつめたい波をながす
イーハトーブ第七支流の岸を
せはしく顫へたびたびひどくはねあがり
まっしぐらに西の野原に奔けおりる
銀河軽便鉄道の今日の最終列車である
ことさらにまぶしさうな眼つきをして
夏らしいラヴスィンをつくらうが
うつうつとしてイリドスミンの鉱床などをかんがへやうが
木影もすべり
種山あたり雷の微塵をかがやかし
どしゃどしゃ汽車は走って行く
おほまちよいぐさの群落や
イリスの青い火のなかを
狂気のやうに踊りながら
第三紀末の紅い巨礫層の截り割りでも
ディアラヂットの崖みちでも
一つや二つ岩が線路にこぼれてやうが
積雲が灼けやうが崩れやうが
こちらは最終の一列車だ
シグナルもタブレットもあったもんでなく
とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りなんぞやれないやつは
もうどこまででも載せて行って
北国あたりで売りとばしたり
銀河の発電所や西のちぢれた鉛の雲の鉱山あたり
監獄部屋に押しこんだり
葛のにほひも石炭からもごっちゃごちゃ
接吻キスをしようが詐欺をやらうが
繭のはなしも鹿爪らしい見識も
どんどんうしろへ飛ばしてしまって
おほよそ世間の無常はかくに如くに迅速である模型を示し
梨をたべてもすこしもうまいことはない
何せ匂ひがみんなうしろに残るのだ
     この汽車は
     動揺性にして運動つねならず
     されどよく鬱血をもみさげ
        ……Prrrrr Pir……
     筋をもみほどすが故に
     のぼせ性こり性の人に効あり
さうさう
いまごろ熊の毛皮を着て
縄の紐で財布を下げた人が来やうが
そんなことはおかまひなく
馬鹿のやうに踊りながらはねあがりながら
もう積雲の焦げたトンネルを通り抜けて
野原の方へおりて行く
尊敬すべきわが熊谷機関手の運転する
銀河軽便鉄道の最終の下り列車である


掲載誌「貌」第七号(1925年8月1日)
関連作品:「春と修羅 第二集」の「三六九 岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)」