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冬(幻聴)

がらにもない商略なんぞたてやうとしたから
そんなミザンスロピーにとっつかまったんだ
       ……とんとん叩いてゐやがるな……
なんだい あんな 二つぽつんと赤い火は
……山地はしづかに収斂し
       凍えてくらい月のあかりや雲……
八時の電車がきれいなあかりをいっぱいのせて
防雪林のてまへの橋をわたってくる
   ……あゝあ、風のなかへ消えてしまひたい……
蒼ざめた冬の層積雲が
ひがしへひがしへ畳んで行く
       ……とんとん叩いてゐやがるな……
世紀末風のぼんやり青い氷霧だの
こんもり暗い松山だの か
       ……ベルが鳴っているよ……
向日葵の花のかはりに
電燈が三つ咲いてみたり
       ……ムーンディーアサンディーアだい……
巨きな雲の欠刻
   ……いっぱいにあかりを載せて電車がくる……


掲載誌「虚無思想研究」(1924年12月1日)
関連作品:「春と修羅 第二集」の「四〇九 冬」