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過労呪禁

なんぼあしたは木炭すみを荷馬車に山に積み
くらいうちから町へ出かけて行くたって
こんな月夜の夜の夜なかすぎ
稲をがさがさ高い処にかけたりなんかしてゐると
 …ずゐぶん遠くの原までも
  葉擦れの音は聞こえるもんだ……
そうら あんなに
苗代の水がおはぐろみたいに黒くなり
畦に植はツた大豆まめはどしどし行列するし
十三日のけぶった月のあかりには
十字になった白い暈さへあらはれて
空も魚の眼球に変り
いづれあんまり碌でもないことが
いくらもいくらも起ってくる
おまへは底びかりする北空の
天河石アマゾンストンのところなんぞにうかびあがって
風をまくらふ野原の慾とふたりづれ
威張って稲をかけてるけれど
おまへのだいじな女房は
下でつかれて乳酸みたいにやはくなり
口をすぼめてよろよろしながら
丸太の先に稲束をつけては
もひとつもひとつおまへへ送り届けてゐる
もういゝ加減区劃くぎりをつけてはねりて
そいつを抱いてやったらどうだ


掲載誌「貌」第一号(1925年7月18日)
関連作品:「春と修羅 第二集」の「三一七 善鬼呪禁」