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この林をくぐれば
みちは来た方へもどる
鳥がぎらきら啼いてゐる
たしか渡りのもずの群だ
夜どほし銀河の南のはじが爆発するものだから
鳥は落ちついてねむられず
あんなにひどくさわぐのだ
けれども
わたくしが一あし林の中にはいったばかりで
こんなにはげしく
こんなに一さうはげしく
まるでにわか雨のやうになくのは
何といふおかしなやつだらう
ここは大きなひのき林で
星がそのいちいちのまっ黒な枝に
落ちやうとする露の火や
あらゆる光の規約を示し
きらきら顫へたり呼吸したりする
  ……鳥があんまりさわぐので
    私はぼんやり立ってゐる……
みちはほのじろく向ふへながれ
木立のけはしい窪みから
赤く濁った火星がのぼる
鳥は二羽だけいつかこっそりやって来て
ごく透明に軋って行った
あゝ 風が吹いてあたたかさや銀のモリキル
あらゆる四面体の感触を送り
蛍がこんなにみだれて飛べば
鳥は雨よりしげく啼き
わたくしは死んだ妹の声を
林のはてのはてからきく
  ……それはもうだれでもひとつことだから
    またあたらしく考へなほさないでいい……
草のいきれとピネンのにほひ
鳥はまた一さうひどくさわぎだす
どうしてそんなにさわぐのか
はやしのなかは蛍もこんなにみだれて飛ぶし
みなみぞらでは星もときどき流れるだらうが
しづかにやすんで
かまはないのだ


掲載誌「貌」第一号(1925年7月18日)
関連作品:「春と修羅 第二集」の「一五六 〔この森を通りぬければ〕」