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一〇八九

路を問ふ

八、二〇、

二時がこんなにくらいのは
時計の中までぬれたのか
本街道をはなれてからは
みちは倒れた稲の中だの
陰気なひばや杉の影だの
まがってまがってここまで来たが
里程にしてはまだそんなにもあるいていない
そしていったいおれの訪ねて行くさきは
地べたについた北のけはしい雨雲だ
またいなびかり
まるできらっとそこらを嘗めて行きやがる
本物がまだ鳴り出さないで
あっちもこっちも
気ちがひみたいにごろころまはるから水車
  ……東は楊……
たうたうぶちまけやがる雷め
路が野原や田圃のなかへ
幾本にも斯う岐れてしまった上は
もうどうしてもこの家で訊くより仕方ない
何といふ陰気な細い入り口だらう
ひばだの桑だの倒れかかったすゝきだの
おまけにそれがどしゃどしゃぬれて
まるであらゆる人を恐れて棲んでゐるやうだ
雨のしろびかりのなかの
小さな萱ぶきの家のなかに
小さな萱家の座敷のなかに
子供をだいて女がひとりねそべっている
    そのだらしない乳房やうちわ
    蠅と暗さと、
    女は何か面倒さうに向ふを向く
  病院のレントゲンに出てゐた高橋君の……
    おれはほとんど上の空で訊いてゐる