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一〇八二

〔あすこの田はねえ〕

一九二七、七、一〇、

あすこの田はねえ
あの種類では少し窒素が多過ぎるから
もうきっぱりと水を切ってね
三番除草はやめるんだ
  ……車をおしながら
    遠くからわたくしを見て
    走って汗をふいてゐる……
それからもしもこの天候が
これから五日続いたら、
あの枝垂れ葉をねえ、
斯ういふふうな枝垂れ葉をねえ
むしってとってしまふんだ
  ……汗を拭く
    青田のなかでせわしく額の汗を拭くそのこども……
それから いゝかい
今月末にあの稲が君の胸より延びたらねえ
ちゃうどシャッツの上のボタンを定規にしてねえ
葉尖を刈ってしまふんだ
  ……泣いてゐるのか
    泪を拭いてゐるのだな……
……冬わたくしの講習に来たときは
    一年はたらいたあととは云へ
    まだかゞやかな苹果のわらひをもってゐた
    今日はもう悼ましく汗と日に焼け
    幾日の養蚕の夜にやつれてゐる……
君が自分で設計した
あの田もすっかり見て来たよ
陸羽一三二号のはうね
あれはずゐぶん上手に行った
肥えも少しもむらがないし
植えかたも育ち工合もほんたうにいゝ
硫安だってきみが自分で播いたらう
みんながいろいろ云ふだらうが
あっちは少しも心配ない
反当二石三斗ならもうきまったやうなものだ
しっかりやるんだよ
これからの本統の勉強はねえ
テニスをしながら 商売の先生から
きまった時間で習ふことではないんだよ
きみのやうにさ
吹雪やわづかの仕事のひまで
泣きながら
からだに刻んで行く勉強が
あたらしい芽をぐんぐん噴いて
どこまで延びるかわからない
それがあたらしい時代の百姓全体の学問なんだ
ぢゃ さようなら
    雲からも風からも
    透明なエネルギーが
    そのこどもにそゝぎくだれ