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一〇五七

〔古びた水いろの薄明穹のなかに〕

 五、七、

古びた水いろの薄明穹のなかに
巨きな鼠いろの葉牡丹ののびたつころに
バラスもきらきらひかり
町は二層の水のなか
 そこには二つのナスタンシヤ焔
 またアークライトの下を行く犬
  さうでございます
  このお児さんは
  植物界に於る魔術師になられるでありませう
月が出れば
たちまち木の枝の影と網
  そこに白い建物のゴシック風の幽霊
 
  肥料を商ふさびしい部落を通るとき
  その片屋根がみな貝殻に変装されて
  海りんごのにほひがいっぱいであった
 
 
むかしわたくしはこの学校のなかったとき
その森の下の神主の子で
大学を終へたばかりの友だちと
春のいまごろこゝをあるいて居りました
そのとき青い燐光の菓子でこしらえた雁は
西にかかって居りましたし
みちはくさぼといっしょにけむり
友だちのたばこのけむりもながれました
わたくしは遠い停車場の一れつのあかりをのぞみ
それが一つの巨きな建物のやうに見えますことから
その建物の舎監にならうと云ひました
そしてまもなくこの学校がたち
わたくしはそのがらんとした巨きな寄宿舎の
舎監に任命されました
恋人が雪の夜何べんも
黒いマントをかついで男のふうをして
わたくしをたづねてまゐりました
そしてもう何もかもすぎてしまったのです
  ごらんなさい
  遊園地の電燈が
  天にのぼって行くのです
  のぼれない灯が
  あすこでかなしく漂ふのです