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一〇一〇

〔火がかゞやいて〕

一九二七、三、一九、

  火がかゞやいて
  けむりも青くすきとほってあがる
  よくみがかれた板の間と
  ぼそぼそ煤けた火棚の鍵
この家は
おかっぱの
頬の赤いこどもらでいっぱいだ
  雪はしづかに外でとけ
  またその雪のほの白い反射
その一人のこどもが
紺の雪ばかまをはき羽織を着て
板の間に別々影と影法師を落して
だまって立っておれを見てゐる
       おれを見てゐる
       見てゐる
おれもだまって見てゐると
むすめの頬はゆがむゆがむ
     どうして
     おれはぼろぼろの服を着て
     銀の鉛筆をさげたえらい先生なのだ
向ふへ行くのに
肩をそびやかして
そんなにくるっとまはるのは
まるでほんとの剣ばひの風だ
   ……曇ったガラス障子の向ふは、
     何かおかしな廊下になってゐて
     その黄な粗壁の土蔵の前には
     もうたくさんのこどもらがあつまってゐる……
さっきのおかっぱのあのむすめが
膳をわざわざみんなの前に持ってきて
板の間へちゃんと座って食べはじめる
白い粥を盛った二つの茶碗を前に置いて
だまって箸をなめてゐる
     影は二っつ
横目でそっとこっちを見ながらたべはじめる
              たべてゐる
榾火はいまおきにかはって
  あっちもこっちも影法師

 さあ さあ 向ふへいかゞですか