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三原 第二部

一九二八、六、一四、

かういふ土ははだしがちゃうどいゝのです
噴かれた灰がヽヽヽのメソッドとかいふやうなもので
気層のなかですっかり篩ひわけられたので
こゝらはいちめんちゃうど手頃な半ミリ以下になってゐて
礫もなければあんまり多くの膠質体もないのです
それで腐植も適量にあり
荳科のものがひとりで大へん育つところを考へますと
石灰なども決して少くないやうすです
燐酸の方はこれからだんだんわかります
たゞ旱害がときどき来るかもしれません
けれどもそれはいはゆる乾燥地農法ドライファーミングでは
ほとんど仲間に入らないかもしれません
まあ敷草と浅土層ソイルマルチをつくること
この二つが一ばん手ごろとおもひます
つまりはげしい日でりのなかで
十ミリ雨が降ったとき、
(何ミリ降ったかそれはたとへば小屋コットの屋根の平坪と
 貯水タンクの底面積を比較して
 その係数をだして置き
 タンクの水の増量を見てもわかります)
またすぐ日が照りだしたりすると
この十ミリは全く土の深い方には届かずに
わづかに表部の根を刺戟して
いままでなれたそのつゝましい蒸散を
俄かに拡大したまゝで
水がそのまゝ蒸発すれば
植物体はあとで却って弱ることさへあるのです
そのときもしかういふふうな浅土層ソイルマルチをつくるなら
その水湿は蒸発せずに
徐々に深部に侵み通り
夜分にかけてよく植物を養ひませう
いったいかういふ砂質サンデー
割合深い土壌では
ひるの間はすっかり土も乾いたやうに見えてゐて
朝にはすっかり湿ってゐるのが普通です
それは土壌が一方毛管作用によって
底の方から水をとってはゐるのですが
ひるはそいつが蒸発分を補ふことができないで
夜には余りあるのです
若しも昼にもソイルマルチや敷藁や
あるひは日陰を与へることで
二つを相償させますならば
一晩くらゐの雨さへあれば
そのあと二十日やそこらは大抵困りません
雑草ですか いゝえそいつはちがひます
草は日蔭はつくっても
一方自分がごく精巧な一つの蒸散器官でせう
つまり自分が土壌の深くに吸引性の支店をもった
たこ配当の銀行などと同じことです
あなたの大事な預金をふいにしたといふ
さういふ風の銀行ですな
それではひとつやりませう
縄を向ふへ張ってください
そらかうですよ
ずゐぶん働きやすい土です
北上川の岸の砂地と同じことです
すぐうしろからさっきの肥料を入れてください
えゝ、 それぐらゐ、そんなふうです
肥料はいちばんむらのないのがいゝのです
それではそれをかういふ風に鋤きこみますよ
それから上を
ごくしっかりと叩きつけます
ぼさぼさ掘って、ことに堆肥をしきこんで
乾いたまゝへいきなり種子を蒔きますと
水の不足でよほど発芽に難儀をします
さっきのやうに深いところから吸ひあげるまで
かういふ風にしっかり叩いて置くのです
これでとにかく一畦やっとできましたから
こゝにはちしゃを播きませう
むらが少しもできないやうに
もう何べんにもごく丁寧に播くのです
あなてたはそっちを播いてください
むらなところは吹いてください
またたなごころでまぶしてもようございます
大事な種子は箱か鉢へ播きつけますが
一つぶ一つぶちいさな棒に水をつけて
ならべることもありますし
鳥の羽などで一めんまぶすこともあります
結局種子と種子の間が
相当きまってはなれてゐればいゝのです
それでは土をかけませう
土の厚さは種子の厚さの三倍あたりが原則ですが
かういふ軽い土ならもっとかけて置きます
いったい種子の発芽には
温熱水湿酸素の三つが要りますが
地表は酸素と熱には多く
深部は湿りが大きいために
土性とそれから気候によってこれら三つの調和の点を求めるのです
非常な旱魃続きのときに
巨きな粒の種子を播きつけしますには
アメリカンインデアンの式をとります
棒で三寸或は五寸も穴をあけ
中に二つぶぐらゐもまいて
わづかに土を投げて入れます
播く前種子を水に漬けるか漬けないか
それは天気とあとの処理とに従ひませう
もしもそのとき雨か或は雨が近くて
発芽がすぐにできますときは
一晩乃至二昼夜ぐらゐ
種子をきれいな水につけます
けれどもちゃうど今日のやうな日
いつまた雨が来るとも知れず
水をかけたりできないときは
むしろ乾いたまゝで播き
雨が来るのを待ちませう
それではどうぞ縄を向ふへ向けてください
 
 
こんどは所謂この農園の装景といふことをしませう
まづ第一にこの庭さきのみづきがあんまり混んでゐて
おまけに桜や五葉松までぎっしりで
大へん狭く苦しい感じがしますから
これをきれいに整理しませう
この木がぜんたいいちばん高くて乱暴です
まるでチーズのやうに切れます
さあではあなたも切ってください
それですそれですその木です
あゝ鋸を土につけてはいけませんなあ
刃がすぐすたってしまひます
たぶんあなたのちいさい時分
木小屋かどこかのひるすぎごろに
誰かゞひとりでしづかにそんな鋸の
目をたてたのをおぼえてませう
ああいふにしてしじゅう大事にするのです
それで結構向ふの樺も伐ってください
木立はいつでも一つの巨きなマッスになるか
さうでなければ一本一本幹から葉まで
見分かるやうになってゐないといけません
大へんそれでよくなりました
その木の二本の幹のうち
右手の方も伐ってください
そしたらひとつこゝから向ふをごらんください
そこらはみづきのうすい赤からアップルグリン
それもうしろはだんだん高く
喪神青になってゐて
向ふが暗い桜の並木
そのまたうしろがあの黒緑な松の梢
すなはちこれが一つの緑の階段で
近代的な浄化過程を示します
そしてうしろがあのかゞやかなタキスの天と
せはしくふるふあの銀いろの微塵です
そこでこんどはこれらの木立の下草に
月光いろのローンをつくるといたしませう
すなはちあすこの松や椿や
羊歯の小暗いトンネルを
どてからこっちへはいって来ると
みづきと桜のあの緑廊になりませう
そこもやっぱり青ぐらく
緑と紫銅のケールの列や
赤いコキヤのぼたんを数へ
しづかにまがってこゝまで来れば
小屋は窓までナスタシヤだの
まっ赤なサイプレスヴァインだの
ぎらぎらひかる花壇で前をよそほはれ
つかれたその眼をめぐらせば
ふたゝびさやかなこの緑色を見るでせう
これだけでまだ不足なら
さっきのみづきと畑のへりの梓をすこうし伐りとって
こゝへ一っつ 六面体の
つたとあけびで覆はれた
茶亭をひとつ建てませう
梓はどの木も枝を残し
停車場などのあのYの字の柱にし
みづきの方は青い網にもこしらえませう