目次へ  縦書き

冬のスケッチ

(1)

     冬のスケッチ 四、

 
   ※
 
芽は燐光
樹液はまこと月あかり
 
   ※
 
薄明穹黄ばみ濁り
こひのこゝろはあわたゞし
 
   ※
 
西の黄金の
尊きうつろに もつれして枝はうかびたり
枝にとまりて からす首をうごかせり。
 
   ※
 
さびしきは
雪のはんのきのめばな
雪のはんのきのその燐光
 
   ※
 
しらくもの日にかゝれば
高く飛ぶ鳥かな

 

(2)

 
   ※
 
日いよいよ白き日を燃したまひ
ひかるは電信ばしらの瀬戸の碍子。
 
   ※
 
銀のモナドを燃したまひ
日輪そらに かゝります
早坂の黒すぎは
みだれごゝろをしづに立つ
 
   ※
 
のばらにからだとられたり
水なめらかにすべりたり。
 
   ※
 
うすぐもり
日は白き日を波に点じ
レンブラントの魂ながれ
小笹は宙にうかびたり
 
   ※
 
これは浅葱の春の水なり
まさに浅葱の春の水なり
かずのぶが蒔絵の中の浅葱水なり
 
   ※
 

(3)

 
   ※
 
雪ふれば杉あたらしく呼吸す
雪霽るれば杉あたらしく呼吸す
 
   ※
 
雪すこしふり
杉にそゞぐ飴いろの日光
なほ雪もよひ 白日輪
からすさわぐ
 
   ※ 農園設計
 
十月はひまはりを見る。
夏はケールとはなやさい。
六月はひなげしを見る
春はたねをみる。
 

(4)

 
そのとき人工の火ひらめきて
水より滋くもえあがり
またほのぼのと消え行けり。
 
   ※
 
なにゆゑかのとき きちがひの
透明クラリネット、
わらひ軋り
わらひしや
 
   ※
 
たばこのけむり かへって天の
光の霧をかけわたせり。
 
   ※
 
せんたくや、
そのときまったく泪をながし
やがてほそぼそ泪かわき
すがめひからせ
インパネスのえりをなほせり。
 
   ※
 
三疋の
さびしきからす
 

(5)

 
三人の
げいしゃのあたま。
 
  ※
 
あたかもそのころ
キネオラマに支度とて
紫の燐光らしきもの
横に舞台をよぎりたり
 
  ※
 
(その川へはしをかけたらなんでもないぢゃ
ありませんか。)と、おもひつめし故かへって
愚のことを云へり。
 
  ※
 
あけがたを
雲がせはしくながれ行き
上等兵は
たばこの火をぴたりと地面になげすてる。
 
  ※
 
劇場のやぶれしガラス窓に
するどくも磨かれ、むらさきの身を光らしめ
西のみかづき歪みかゝれり。
 

(6)

 
ぬすまんとして立ち膝し、
その膝、光りかゞやけり
 
ぬすみ得ず 十字燐光
やがていのりて消えにけり。
 
  ※ おもかげ
 
心象しんしゃうの燐光盤に
きみがおもかげ来ぬひまは
たまゆらをほのにやすらふ
そのことのかなしさ。
 
天河石てんがせき心象しんしゃうのそら
うるはしきときの
きみがかげのみ見えれば
せつなくてわれ泣けり。
 
  ※ 寂静印
 
ぱんのかけらこぼれ
いんくの雫かわきたり。
 

(7)

 
  ※
 
九時六分のかけ時計
その青じろき盤面ダイアル
にはかにも
天の栄光そゝぎたれり。
 
  ※
 
しろびかりが室をこめるころ
澱粉ぬりのまどのそとで
しきりにせのびをするものがある
しきりにとびあがるものがある
きっとゾンネンタールだぞ。
 
  ※
 
さかなのねがひはかなし
青じろき火を点じつつ。
 
まことはかなし
 

(8)

 
め居たれ
 
  ※
 
けむりかゝれば はんのきの
酸化銅の梢 さっとばかりに還元す。
 
  ※
 
はんのきよ
きりのこされしはんのきよ
褐の雄ばなの房垂るゝ
その房もまたわれに与へよ。
与へずや。
 
  ※
 
ここの並木の松の木は
あんまり混み過ぎますよ
あんまり枝がこみあって
せっかくの尾根の雪も
また、そら、あの山肌の銅粉も
なにもかもさっぱり見えないぢゃありませ
んか。すこし間伐したらどうです。
 
  ※
 
雪がふかいのならば
 

(9)

 
仕方もありませんけれど
これではあんまり
きちがくらすぎませんか。
 
  ※
 
いつの間にやら
銅粉をまいてけむってゐた山も見えません
し、
藍の山肌がゴリゴリの岩にかはり
川の向ふに黒くそびえて居りました。
 
  ※
 
和賀川のあさぎの波と
天末のしろびかり
緑青の東の丘をわれは見たり
 
  ※
 
(赦したまへ。)
この層はひどい傾斜です。
おまけに峡谷にはいりましてから
にはかに雪が増しました。
 
  ※
 
ぎざぎざに
 

(10)

 
ちぎられし
どてのひまより
ひかりの天末
かがるがはるのぞきたり
 
  ※
 
あすこが仙人の鉄山ですか。
雪がよごれて黄いろなあたり。
 
  ※
 
夏油(げたう)の川は岩ほりて
浅黄の波を流したり
雑木と雪のうすけぶり
ましろき波を鳴らしたり。
 
  ※
 
いたゞきの梢どもは
つめたき天にさらされて
けさなほ雪をかむりたり。
 
  ※
 
雪融の山の雪ぞらに
一点白くひかるもの
 

(11)

 
恐らくは白日輪なりなんを
ひとびとあふぎはたらけり。
 
  ※
 
赤さびの廃坑より
水しみじみと湧きて鳴れり。
 
  ※
 
げに和賀川よ赤さびの
けはしき谷の底にして
春のまひるの雪しろの
浅黄の波をながしたり。
 
  ※
 
和賀川の浅葱の雪代水に
からだのりだす栗の木ら
その根は赤銹によりて養はる。
 
  ※
 
ならび落つる 泉を見んと立ちどまりしとき
かれ葉かさかさと鳴り
透明の雨はふりきたる
雑木のこずえに
 

(12)

 
日輪白くかゝりて在はせど。
 
  ※
 
さっきのごりごりの岩崖で
降り出したのは雨ではなかったぜ
霙らしかったよ。 霙だぜ。
 
  ※
 
わがもとむるはまことのことば
雨の中なる真言なり
あめにぬれ 停車場の扉をひらきしに
風またしとゞ吹き出でて
雲さへちぎりおとされぬ。
 
  ※
 
崖下の
旧式鉱炉のほとりにて
一人の坑夫
妻ときたるに行きあへり
みちには雪げの水ながれ
二疋の犬もはせ来る
されど 空白くして天霧し
町に一つの音もなけれど
 

(13)

 
  ※
 
風の中にて
ステッキ光れり
かのにせものの
黒のステッキ。
 
  ※
 
風の中を
なかんとていでたてるなり
千人供養の
石にともれるよるの電燈
 
  ※
 
やみとかぜとのなかにして
こなにまぶれし水車屋は
にはかにせきし歩みさる
西天なほも 水明り。
 
  ※
 
やみのなかに一つの井戸あり
行商にはかにたちどまり
つるべをとりてやゝしばし
 

(14)

 
天の川をばながめたり
 
あまの川の小き爆発
たよりなく行ける鳥あり
かすかにのどをならしつゝ
ひとはつるべを汲みあぐる。
 
  ※ 奉膳
 
つめたき朝の真鍮に
盛りまつり
こゝろさびしくおろがめば
おん舎利ゆゑにあをじろく
燐光をはなちたまふ。
 
  ※
 
ちり落ち来り
雪となりてつちにつむ
にっぽんなどと呼ばれたる
この気圏のはなれがたし
 
  ※
 
桐の実は
 

(15)

 
このとき凍りし泥のでこぼこも寂まりて
街燈たちならぶ菩薩たちと見えたり
 
  ※
 
弓のごとく
鳥のごとく
昧爽まだきの風の中より
家に帰り来れり。
 

(16)

 
にはかにも立ち止まり
二つの耳に二つの手をあて
電線のうなりを聞きすます。
 
  ※
 
そのとき桐の木みなたちあがり
星なきそらにいのりたり。
 
  ※
 
みなみ風なのに
こんなにするどくはりがねを鳴らすのは
どこかで空で
氷のかけらをくぐって来たのにちがひない
 
  ※
 
瀬川橋と朝日橋との間のどてで
このあけがた
ちぎれるばかりに叫んでいた、
電信ばしら。
 
  ※
 
風つめたくて
北上も、とぎれとぎれに流れたり
みなみぞら
 

(17)

 
からす、正視にたえず、
また灰光の桐とても
見つめんとしてぶかくらむなり。
 
  ※
 
たましひに沼気つもり
くろのからす正視にたえず
やすからん天の黒すぎ
ほことなりてわれを責む。
 
  ※
 
きりの木ひかり
赤のひのきはのびたれど
雪ぐもにつむ
カルボン酸をいかにせん。
 
  ※
 
かなしみをやめよ
はやしはさむくして
 

(18)

 
  ※
 
行きつかれ
はやしに入りてまどろめば
きみがほほちかくにあり
(五百人かと見れば二百人
 二百人かと見れば五百人)
いつか日ひそみ
すぎごけかなしくちらばれり。
 
  ※
 
散乱のこゝろ
そらにいたり
光のくもを
織りなせり。
 

(19)

     冬のスケッチ 五、

 
     ※ 朝
 
みちにはかたきしもしきて
きたかぜ檜葉をならしたり
贋物師いかものし加藤宗二郎の門口に
まことの祈りのこゑきこゆ
 
     ※
 
実をむすび日をさへぎれる桐のえだあり。
 
     ※
 
すこし置きたるかたしもを
吹きあげしたるきたのかぜ
日輪 はやくもしろびかり
銀の後光を  降らしたり
 
     ※
 
水のしろびかり見れば
こゝろきよめらる
 
日のしろびかり消ゆれば
うづまきてながるゝなみ
 

(20)

     ※
 
みなみの天末は
白金にしてひらけたれば
はやくもひとの飛び過ぐる。
 
     ※ なやみ
 
なやみは
ただし、
なやみは
白くみゆ。
 
     ※
 
かばかりも
しづむこゝろ
雪の中にて
蝉なくらしを
 
     ※
 
そのとき
雪の蝉
又鳴けり。
 
     ※
 
若きそらの母の下を
小鳥ら、ちりのごとくなきて過ぎたり。
 

(21)

 
     ※
 
そらの若き母に
梢さゝぐるくるみの木
くるみのえだの
かぼそい蔓
 
     ※
 
そらしろびかり
くるみとは
げにもあやしき
気圏の底のいきものなるかな。
 
     ※
 
すこしの雪をおとしたる
母のみそらのしろびかり
あらそふはからす
枝をのばすはくるみの木
 
     ※
 
雪すこし降り
杉しづまり
からすども鳴く、鳴く、
からだも折れよと鳴きわたる。
 

(22)

 
梢ばかりの紺の一本杉が見えたとき
草にからだを投げつければ
わづかに見える天の地図
 
     ※
 
地平線近くのしろびかりは
亜鉛の雪か天末か
うすあかりからかなしみが来るものか。
 
     ※
 
おゝすばるすばる
ひかり出でしな
枝打たれたる黒すぎのこずえ。
 
     ※
 
せまるものは野のけはひ
すばるは白いあくびをする
塚から杉が二本たち
ほのぼのとすばるに伸びる
 
     ※
 
すばるの下に二本の杉がたちまして、
杉の間に一つの白い塚がありました。
如是相如是性如是体と合掌して
 

(23)

 
申しましたとき
はるかに停車場のあかしの列がゆれました。
 
     ※
 
 日曜にすること
 運針布を洗濯し
 うん針を整理し
 試験をみる
 それから つばきの花をかき
 本をせいりし 手げいをする
   とノートにはじに書けるなり。
 
     ※
 
天上に青白い顔が見える
黄金の輪廓から、
 
     ※
 
ねばつちですから桐はのびないのです。
横に茶いろの枝をひろげ
いっぱいに黒い実をつけてゐます。
台の向ふはしろいそら、
ピンとはられた電線のはりがね。
 
     ※
 

(24)

 
水こぼこぼと鳴る
ひぐれまぢかの笹やぶを、
しみじみとひとりわけ行けり。
 
     ※
 
隔離舎のうしろの杉の脚から
西のそらが黄にひかる
 
     ※
 
雨がふり出し
却って雪は光り出す
 
     ※
 
雪融けの洪水から 杉は
みんな泥をかぶった。
それからつゞいてそらが白く
雪は黄色に横たはり
鷹は空で口をあけて飛び
からすはからだをまげてないた。
 
     ※
 
かれ草は水にはかれ
そらしろびかり
崖の赤砂利は暗くなる。
 

(25)

     ※
 
きりあめのよるの中より
一すじ西の青びかり、
はじめは雪とあざわらひ
やがては知りつ落ちのこり
薄明穹のひとかけと
ほのかにわらひ人行けり。
 
     ※
 
これはこれ、はがねをなせる
やみの夜のなつかしき灰いろなり
そらよりは霧をふらしたれば
まちの灯は青く見え
らんかんは夢みたり、
又、鳥そらの方に鳴きて
川水鳴りぬ、これはこれ
まことのやみの灰いろなり。
 
     ※
 
鼓膜をどこからか圧するものがあるぞ
まっくろ林の方でかさかさ歌ってゐる声が、
 

(26)

 
どこかはっきりわからないぞ、
 
     ※
 
灰いろはがねの夜のそこ
砂利にからだをほうり出せ。
 
     ※
 
灰鋳鉄のよるのそこ
あるき出せば風がふき出す
 
黒のフィウマス、並木松、
風が軋るぞ、あるき出せ。
 
     ※
 
黒松ばやし
近づけば
おれは一つぶ。
林の磁石、松の闇。
 
     ※
 
灰鋳鉄のやみのそこにて
なにごとをひとりいらだち
罵るをとこぞ 天ぎらし。
 

(27)

 
     ※
 
 私は線路の来た方をふりかへって見ました。
そこは灰色でたしかに 死にののはらにかは
ってゐたのです。闇もさうでしたしかれく
さもさうでした。
 
     ※
 
 シグナルに
 にはかに青き火あらはれ
 汽車かけ来りたれば
 われせきを越しどてに座せり
 霧青くふりきたり
 列車に明き窓もなく
 まことに夜の貨物のみ。
 たゞしけむりはシグナルの赤をうつして
 ひらめけり。あるひは青く流れたり。
 
     ※
 
(メキシコの
 さぼてんの砂っ原から
 向ふを見るとなにが見えますか。)
 (ポポカテペトル噴火山が見えます。)
 

(28)

 
(さうです。そんならポポカテペトル噴火山から下の方
 を見ると何が見えますか。)
 (ポポカテペトル山の上から下を見ますと
  主にさぼてんなどが見えます。)
 
     ※
 
つゝましく肩をすぼめし家並に
さかまきひかるしろのくも。
 
     ※
 
雲のしらが 光りてうづまきぬ。
 
     ※
 
なまこぐものへり
あまりにもしろびかり
まぶしさに
目もあかれず。
 
     ※
 
天狗巣病にはあらねども
あまりにしげきこずえなり
 (光の雲と桜の芽)
 
     ※
 
気圏かそけき霧のつぶを含みて
 

(29)

 
東京の二月のごとく見ゆになり
腐植質のぬかるみを
あゆみよりしとき
停車場のガラス窓にて
わらひしものあり
又みぢかきマント着て
税務風も入り来りけり。
 
     ※
 
兄弟の馬喰にして
一人はこげ茶
一人は朝のうぐいすいろにいでたてり
ひげをひねりてかたりたり。
 
     ※
 
白きそらにて 電燈いま消えたり
されば腐植のぬかるみをふみて
ひとびとはたらきいでしなり
 
     ※
 
電車のはしらはすなほなり
白いそらに行かんとするをふみとまり
 
     ※
 

(30)

 
     ※
 
用なき朝のシグナルの
青めがね白きそらをすかせり
 
     ※
 
栗駒山あえかの雪をたゝえたり
あえかの雲を流したり
天末は銀のいらだち 白びかり
 
     ※
 
しろきそらを鳥二羽つかれてたゞよひしが
やがてもろともに
高ひのきの梢にとまれり。
 
     ※
 
みつむれば
栗駒山のつらなりの
雪の中よりひかりわき
しろびかり、又黄のひかりわき
わがこゝろの中に影置けり。
 
     ※
 
ぢっとつめたく、松のあしのうごくをなが
 

(31)

 
     ※
 
西は黒くもそらの脚
つめたき天の白びかり
からまるはさいかちのふぢ
埃はかゝるガラス窓
 
つめたくひるげを終へ
ひとびとのこゝそぐはず
西の黒くも、しろびかり
暖炉は石墨の粉まぶれ
 
たまゆらにひのきゆらげば
校長の広き肩はゞ
茶羅紗をくすぼらし門を出づ。
埃はかゝるガラス窓。
 
     ※
 
杉なみのひざし
山ぶきの茎の青から青のオーバ、
 

(32)

 
いてふのこずえのひざしつくづく
天かけるゆげむら
 
     ※
 
外套を着て
家を出ましたら
カニスマゾアばかり
きれぎれのくろくもの
中から光って居りました。
 
     ※
 
黒くもの下から
少しの星座があらはれ 橋のらんかんの夢、
そこを急いで その黒装束の
脚の長い旅人が行き
遠くで川千鳥が鳴きました。
 
     ※
 
そら中にくろくもが立ち
西のわづかのくれのこり
銀の散乱の光を見れば
にはかにむねがをどります
 

(33)

 
     ※
 
川が鳴り
雲がみだれ
ぬかるみは
西のすこしの銀の散乱をうつす。
 
     ※
 
川瀬の音のはげしいくらやみで
根子の方のちぎれた黒雲に
むっと立ってゐる電信ばしらあり。
 
     ※
 
西公園の台の上にのぼったとき
大きな影が大股に歩いて行くのをおれは見た。
 
     ※
 
こめかみがひやっとしましたので
霰かと思って急いでそらを見ましたら
丁度頭の上だけの雲に穴があき
さびしい星が一杯に光って居りました。
 
それからまたそのことを書きつけて
 

(34)

 
何座だらうともう一遍そっちを見ましたら
こんどはもうぼねんやりした雲がいっぱいで
遠くを汽車がごうとはせました。
 
     ※
 
ほんたうにおれは泣きたいぞ。
一体何をを恋してゐるのか。
黒雲がちぎれて星をかくす
おれは泣きながら泥みちをふみ。
 
みちばたの小藪に
からだをおとしたとき
停車場の灯の列はゆれ
気圏も泣いているらしい。
 
     ※
 
このとき星またあらはれ或はカシオペイ
アかと思ひ、あくびせり
ほのぼのと夜のあくびせり
 
     ※
 
おれのかなしさはどこからくるのだ。
 

(35)

 
     ※
 
鉛筆のさきにて
まことたまゆら
ひらめき見えし
燐光よ。
 
     ※
 
でこぼこの地平線
地平線の上のうすあかり
うすあかくしてたゞれたり
いづちより来し光るならん。
 
     ※ 線路
 
汽車のあかるき窓見れば
こゝろつめたくうらめしく
そらよりみぞれ降り来る。
 
     ※
 
まことのさちきみにあれと
このゆゑになやむ。
 
     ※
 
きみがまことのたましひを
 

(36)

 
まことにとはにあたへよと
いな、さにあらず、わがまこと
まことにとはにきみよとれ、と。
 
     ※
 
ひたすらにおもひたむれど
このこひしさをいかにせん
あるべきことにあらざれば
よるのみぞれを行きて泣く。
 
     ※
 
まことにひとにさちあれよ
われはいかにもなりぬべし。
こはまことわがことばにして
またひとびとのことばなり。
 
かなしさになみだながるる。
 
     ※
 
みぞれのなかの菩薩たち
応はひゞきのごとくなり
はかなき恋をさながらに
まことのみちにたちもどる。
 

(37)

 
はやくも酵母菌をこめ
白日輪のいかめしき
(からすはなほも演習す。)
 
     ※
 
あまりにも
こゝろいたみたれば
いもうとよ
やなぎの花も
けふはとらぬぞ。
 
     ※
 
凍りしく
ゆきのなかからふせたおほばこの黄いろの
穂がみな北に向いてならんでゐます。
 
     ※ がけ
 
杉ばやし
けはしきゆきのがけをよぢ
こゝろのくるしさに
なみだながせり。
 
     ※
 

(38)

 
(からすそらにてあらそへるとき
あたかも気圏飽和して
さとかゝれる 氷の霧。
 
     ※
 
眩ぐるとき
ひかりのうつろ、
のびたちて
いちじくゆるゝ
天狗巣のよもぎ
 
     ※
 
ながれ入るスペクトルの黄金
ひかりかゞやくよこがほよ
こころもとほくおもふかな。
 
     ※
 
ストウブのかげらふのなかに
浸みひたる 黄いろの靴した。
 
     ※
 
電信のオルゴール
ちぎれていそぐしらくもの
つきのおもてをよぎりては
 

(39)

 
たゞよひてみゆ
かなしき心象
なみださへ
その青黝の辺に
消え行くらし。
 
     ※
 
照準器の三本あしとガラスまど
微風はかすれ、松の針
このよのことかとあやしめり。
 
     ※
 
かれ草と雪の偏光
越え行くときは
ねばつちいけにからす居て
からだ折りまげ水のめり。
 
     ※
 
かれ草と雪の偏光
天をうつせるねばつちの
いけにかゞまり水のむからす。
 
     ※
 
すぎいまはみなみどりにて
 

(40)

 
葉をゆすり 葉をならし
青ぞらにいきづけること明らけし。
 
     ※
 
ある年の気圏の底の
春の日に
すぎとなづけしいきものすめりき
 
     ※
 
そらの椀
ほのぼのとして青びかり
気圏の底にすぎとなづくる
青きいきものら
さんさんといきづき 葉をゆする
 
     ※ 木とそら
 
そらの椀
げにもむなしくそこびかり
杉はまさしく青のいきもの
額〔ぬか〕くらみ。
 
     ※
 
そらはよどみてすぎあかく
 

(41)

 
青じろ、にぶきさびを吐く。
(そのしらくものたえまより
 大犬の青き瞳〔め〕いまぞきらめきのぞくなれ。)
 
     ※ もだえ
 
月の鉛の雲さびに
つみ、投げやれど
すべもなし。
 
     ※
 
そらうつす
ねばつちのいけに
かがまりて
からすゐたり、
やまのゆきのひかりを。
 
     ※
 
くれぞらのしたにして
すっぱき雲と
うつろにほえる犬の声と。
 
     ※
 
つぎつぎに
 

(42)

 
まどのガラスに塵置きて
はるかなるはやしのなかの
たけたかき二本のすぎは
つめたききりと
はるとのなかに立ちまどふ。
 
     ※
 
あかきひのきのかなたより
エステルのくもわきたてば
はるのはむしらをどりいで
かれくさばたのみぎかどを
気がるにまがるインパネス。
 
     ※
 
光波のふるひの誤差により
きりもいまごろかゝるなり
げに白日の網膜の
つかれゆゑひらめける羽虫よ。
 
     ※ 光酸
 

(43)

 
雲の傷みの重りきて、
光の酸をふりそゝぎ、
電線小鳥 肩まるく、
ほのかになきて溶けんとす。
 
     ※
 
風のうつろのぼやけた黄いろ
かれ草とはりがね、郡役所
ひるのつめたいうつろのなかに
あめそゝぎ出でひのきはみだるる。
(まことこの時心象のそらの計器は
 十二気圧をしめしたり。)
 
     ※
 
よくも雲を濾し
あかるくなりし空かな。
うつろの呆〔ほう〕けし黄はちらけ
子供ら歓呼せり。
 
     ※

(44)

 
ゆきをかぶりて
青らむ天の
下にあり
 
     ※
 
寂まりの桐のかれ上枝
点々かける赤のうろこぐも
 
     ※
 
火はまっすぐに燃えて
あるひは見えず
このとき
鳩かゞやいて飛んで行く。
 
     ※
 
灰いろはがねのいかりをいだき
われひとひらの粘土地を過ぎ
がけの下にて青くさの黄金を見
がけをのぼりてかれくさをふめり
雪きららかに落ち来れり。
 
     ※
 
トウコイスのいた
くもをはけば
 

(45)

 
かなしむこゝろまたさびしむ。
江釣子森とでんしんばしら。
 
     ※
 
くらいやまと銀のやま
かれくさとでんしんばしら
ラリックス
 
     ※
 
そらの青びかりと酵母のくも
まことにてなみだかわくことあり。
 
     ※
 
やますそのかれくさに
うすびうづまき
黒き楊の木 三本あり。
 
     ※
 
げにもまことのみちはかゞやきはげしくして
行きがたきかな。行きがたきゆゑにわれと
どまるにはあらず。おゝつめたくして呼吸
もかたくかゞやける青びかりの天よ。かなし
みに身はちぎれなやみにこゝろくだけつゝ
なほわれ天を恋ひしたへり
 

(46)

 
さびしき唇
 
     ※
 
栽えられし緑の苣を見れば
あらたに感ず海蒼色のいきどほり
陽光かたぢけなくも波立つを。
 
     ※
 
日輪光燿したまふを
かたくななるわれは泣けり。
 
     ※
 
黒き堆肥は
四月なり。
北の天末
Tourquois。
硝酸化合物は
いきどほろし
 
     ※
 
風青き喪神を吹き
黄金の草いよよゆれたり。
 
     ※ 光燿礼賛
 

(47)

 
白光をおくりまし
にがきなみだをほしたまへり
さらに琥珀のかけらを賜ひ
忿りの青さへゆるしませり。
 
白光のなかなれば
燐光ゆがむ 妖精も
ころものひださへととのへず
ほのぼのとしてたゞ消え行けり。
 
     ※
 
雨のかなたにて
雪赤くひかれり
 
また雲さらにくらくして
のこりのやなぎ
芽はゆすれり。
 

(48)

 
ボーイ紅茶のグラスを集め
「まっくらでござんすな、
 おばけが出さう。」と云ひしなり。
 

(49)

 
灼の石灰、光のこな
葡萄の葉と蔓とに降らす
 
火雲飛び去れば
わが小指ひきつる。