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〔冬のスケッチ 補遺〕

 
       ◎
 
くもにつらなるでこぼこがらす
はるかかなたを赤き狐のせわしきゆきき
べっかうめがねのメフィスト
 
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 (ばかばかしからずや
  かの白光はミラノの村)
そを示す白き指はふるひ
そらより落ち来る銀のモナドのひしめき
 
       ◎

棕櫚の葉大きく痙攣し
陽光横目にすぐるころ
息子の太子は
古スコットランドの
貴族風して戻り来れり
 
       ◎

日光きたりて
いそぎくびすを返すと思ひしに
そはいみじきあやまり
朝の梢の小き街燈
  げにもすぎたる歓楽は
  すでに来しやとうたがはる
露は草に結び
雲は羊毛とちゞれたり
 
       ◎

日過ぎ来し雲の原は
さびしく掃き浄められたり
 
       ◎

かくまでに
心をいたましむるは
薄明穹の黒き血痕
新らしき
見習い士官の肩章をつけて
その恋敵笑って過ぐる
 
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聖なる窓
そらのひかりはうす青み
汚点ある幕はひるがへる
  ……Oh,my reverence !
    Sacred St. Window !
 
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われはダルゲと名乗れるものと
つめたく最后のわかれをかはし
白き砂をはるかにはるかにたどれるなり
その三階より灰いろなせる地下室に来て
われはしばらく湯と水とを呑めり
   (白き砂をはるかにはるかにたどれるなり)
そのとき瓦斯のマントルはやぶれ居て
焔は葱の花をなせるに
見つや網膜の半ばら奪ひとられて
その床は黒く散乱せりき
   (白き砂をはるかにはるかにたどれるなり)
 
       ◎

赤き幽霊
黄いろの幽霊
あやしきにごりとそらの波
あるひはかすけき風のかげ。
 
       ◎

西ぞらのちゞれ羊より
ひとの崇敬は照り返され
   (天の海と窓の日覆い)
ひとの崇敬は照り返され
  日はしづみ
  屋根屋根に
  藍晶せきの粉末が撒かれ
  さびしくひるがへる天竺木綿
ひとの崇敬はまた照り返され
 
       ◎

霧は雨となり
建物はぬれ
ひのきはかなき
    日光の飢を感ぜり
 
       ◎

ある童子はかすかなる朝の汗を拭ひ
あるは早くも芝笛を吹き
陽光苔に流れつゝ
白き菌はつめたくかほりぬ
 
       ◎

そらのふかみと木のしじま
はちすずめ
群は見がたし
 
       ◎

こはドロミット洞窟の
つめたく硬き床にもあらずや
さるにてもいま
幾筒の環を嵌められしぞも
巨人の白く光る隻脚
 
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林間に鹿はあざける
  (光はイリヂウムより強し)
げに蒼黝く深きそらかな
却って明き園の塀
 
       ◎

小さき煉瓦場に人は居ず
まるめろのにほひたゞよひ
火あかあかと燃えたり
  (大なる唐箕
   幅広の声にて
   ひとり歌へるは
   こゝにはいともふさはしからず)
 
       ◎

つめたくさびしきよあけごろ
蚊はとほくにてかすかにふるひ
凝灰岩のねむけとゆかしさと
 銀のモナドぞそらにひしめき
 
       ◎

霧のやすけさは天上のちゝ
精巧のあをみどろ水一面をわたり
はちすさやかに黄金の微塵を吐けば
立ちならぶ岸の家々
早くもあがるエーテルの火