目次へ  縦書き

        水星少女歌劇団一行

(ヨハンネス! ヨハンネス! とはにかはらじを
 ヨハンネス! ヨハンネス! とはにかはらじを……)
(あらドラゴン! ドラゴン!)
(まあドラゴンが飛んで来たわ)
(ドラゴン、ドラゴン! 香油をお呉れ)
(ドラゴン! ドラゴン! 香油をお呉れ)
(あのドラゴン、翅が何だかびっこだわ)
(片っ方だけぴいんと張って東へ方向を変へるんだわ)
(香油を吐いて落してくれりゃ、座主マスターだって助かるわ)
(龍の吐くのは夏だけだって)
(そんなことないわ、春だって吐くわ)
(夏だけだわよ)
(春でもだわよ)
(何を喧嘩してんだ)
(ねえ、勲爵士、龍の吐くのは夏だけだわね)
(春もだわねえ、強いジョニー!)
(あゝドラゴンの香料か。あれは何でもから松か何か
 新芽をあんまり食ひすぎて、胸がやけると吐くんださうだ)
(するといったいどっちなの!!)
(つまりは春とか夏とかは、季節の方の問題だ、
 龍の勝手にして見ると、なるべく青いいゝ芽をだな、
 翅をあんまりうごかさないで、なるべくたくさん食ふのがいゝと
いふ訳さ
 ふう いゝ天気だねえ、どうだ、水百合が盛んに花粉を噴くぢゃ
あないか。)
  沼地はプラットフォームの東、いろいろ花の爵やカップが、代
る代る厳めしい蓋を開けて、青や黄いろの花粉あ噴くと、それはど
んどん沼に落ちて渦になったり条になったり株の間を滑ってきます。
(ねえジョニー、向ふの山は何ていふの?)
(あれが名高いセニヨリタスさ)
(まあセニヨリタス!)
(まあセニヨリタス!)
(あの白いのはやっぱり雪?)
(雪ともさ)
(水いろのとこ何でせう)
(谷がかすんでゐるんだよ
 おゝ燃え燃ゆるセニヨリタス
 ながもすそなる水いろと銀なる襞をととのへよ
 といってね)
(けむりを吐いてゐないぢゃない?)
(けむをはいたは昔のことさ)
(そんならいまは死火山なの)
(瓦斯をすこうし吐いてるさうだ)
(あすこの上にも人がゐるの)
(居るともさ、それがさっきのヨハンネスだらう、汽車の煙がまだ
見えないな)
  ジョニーは向ふへ歩いて行き、向ふの小さな泥洲では、ぼうぼ
うと立つ白い湯気のなかを、蟇がつるんで這ってゐます。