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     夜


これで二時間
咽喉からの血はとまらない
おもてはもう人もあるかず
樹などしづかに息してめぐむ春の夜
こここそ春の道場で
菩薩は億の身をも捨て
諸佛はここに涅槃し住し給ふ故
こんやもうここで誰にも見られず
ひとり死んでもいいのだと
いくたびさうも考へをきめ
自分で自分に教へながら
またなまぬるく
あたらしい血が湧くたび
なほほのじろくわたくしはおびえる