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     悍馬(作品第一〇四六番)

封介の厩肥こえつけ馬が、
にはかにぱつとはねあがる
眼が紅く
龍に変つて
青びいどろの春の天を
あせつて掻いてとらうとする
   厩肥が一つぽろつとこぼれ
   封介ののろしは四方に騰り
   萱草芽を出す崖腹に
   マグノリアの花と霞の青
封介はたづなをしつかり押へ
半分どてへ押しつける
馬は二三度なほあがいて
やうやく巨きな頭をさげ
龍になるのをあきらめた

他人ひとの馬のあばれるのを
なにもそんなに見なくてもいゝ
おまへの鍬がひかつたので
馬がこんなにおどろいたのだと
こぼれ厩肥にかゞみながら
封介はしづかにうらんで云ふ
封介は一昨日から
くらい厩で
熱くむつとする
何百把かの厩肥をしばつて
すつかりむしやくしやしてゐるのだ