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     作品第一〇一五番

バケツがのぼつて
鉛いろしたゴーシユ四辺形の影のなかから
いまうらゝかな波をたゝへて
ひざしのなかにでゝくると
そこに―ひとひら―
  ―なまめかしい貝―
 ―ヘリクリサムの花冠―
一ぴきの蛾が落ちてゐる
滑らかに強い水の表面張力から
四枚の翅を離さうとして
蛾はいつしんにもだえてゐる
   ―またたくさんの小さな気泡……
わたくしはこの早い春への突進者
鱗翅の群の急尖鋒を
温んでひかる気海のなかへ
再び発足させねばならぬ
早くもちいさな水けむり
鱗粉気泡イリデスセンス
春の蛾は
ひとりで水を叩きつけて
     飛び立つ
    飛び立つ
   飛び立つ
もういま杉の茶いろな房と
不定形な雲の間を航行する