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     蟻(作品第三五〇番)

おれのいまのやすみのあひだに
キチンの硬い棒を頭でふりまはしたり
口器の斧を鳴らしたり
おれの古びた春着のひだや
しやつぽにのぼつた漆づくりの昆虫ども
山のひなたの熊蟻どもはみなおりろ
下りないともう途方もないひどいところに連れてくぞ
    ……落ちろ……
もちろんどこまで行つたつて
つやつやひかるアネモネの旒は
青ぞらに白くながれようし
葡萄酒いろした巨きな花の蜜槽も
すずらんのにほひをはこぶ
つめたい風もあるにはあらう
それでも何かそこらあたりのでこぼこや
しめり工合がちがつていて
おまけに巣もなく知合ひもない
その恐ろしい廣い世界の遠くの方へ
行きたくないものはみんな落ちろ
   ……落ちろ
     そんな細い黒い脚を折るまいと
     どんなにおれは苦うすることか
     ひとりで落ちろ……
どいつもこいつも
馬の尾つぽみたいに赤茶けたやつらだ