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     母に云ふ(作品第三二九番ノ二)

馬のあるいたみちだの
ひとのあるいたみちだの
センホインといふ草だの
方角を見ようといくつも丘にのぼつたり
まちがつて防火線をまはつたり
がさがさがさがさ
まつ赤に枯れた松の中や
わらびの葉だのすゞらんの實だの
泥炭地をかけ抜けたり
岩手山の雲をかぶつたまばゆい雪から
風をもらつて帽子をふつたり
しまひにはもう
まるでからだをなげつけるやうにして走つて
やつとのことで
南の雲の縮れた白い火の下に
小岩井の耕耘部の小さく光る屋根を見ました
萱のなかからばつと走つて出ましたら
そこの日なたで六つぐらゐのこどもがふたり
雪ばかまをはきけらを着て
栗をひろつてゐましたが
たいへんびつくりしたやうなので
わたくしもおどろいて立ちどまり
わざと狼森おいのもりはどれかとたづね
ごくていねいにお禮を言つてまたかけました
それからこんどは燧堀ひうちぼり山へ迷つて出て
さつぱり見当がつかないので
もうやけくそに停車場はいつたいどつちだと叫びますと
栗の木ばやしの日ざしのなかから
若い牧夫がたいへんあわてて飛んで来て
わたくしをつれて落葉松の林をまはり
向ふのみだれた白い雲や
さわやかな草地の縞を指さしながら
詳しく教へてくれました
わたくしはまつたく気の毒になつて
汽車賃を引いて残りを三十銭ばかり
お禮にやつてしまひました
それからも一度走つて走つて
やうやく汽車に間に合ひました
そして昼めしをまだたべません
どうか味噌漬けをだしてごはんをたべさして下さい

はあ さうか