目次へ  縦書き

     善鬼呪禁(作品第三一七番)

なんぼあしたは木炭すみを荷馬車に山に積み
くらいうちから町へ出かけて行くたつて
こんな月夜の夜なかすぎ
稲をがさがさ高いところにかけたりなんかしてゐると
あんな遠くのうす墨いろの野原まで
葉擦れの音も聞こえてゐたし
どこからどんな苦情が来ないもんでない
だいいちそうら
そうら あんなに
苗代の水がおはぐろみたいに黒くなり
畦に植はつた大豆まめもどしどし行列するし
十三日のけぶつた月のあかりには
十字になつた白い暈さへあらはれて
空も魚の眼球めだまに變り
いづれあんまり碌でもないことが
いくらもいくらも起つてくる
おまへは底びかりする北ぞらの
天河石アマゾンストンのところなんぞにうかびあがつて
風をまくらふ野原の慾とふたりづれ
威張つて稲をかけてるけれど
おまへのだいじな女房は
地べたでつかれて酸乳みたいにやはくなり
口をすぼめてよろよろしながら
丸太のさきに稲束をつけては
もひとつもひとつおまへへ送り届けてゐる
どうせみんなの穫れない歳を
逆に旱魃ひでりでみのつた稲だ
もういゝ加減区劃りをつけてはねおりて
鳥が渡りをはじめるまで
ぐつすり睡るとしたらどうだ