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     半蔭地選定(作品第一五六番)

落葉松の方陣は
せいせい水を吸ひあげて
ピネンも噴きリモネンも吐き酸素もふく
ところが栗の木立の方は
まづ一とほり酸素と水の蒸気を噴いて
あとはたくさん青いラムプを吊すだけ
  ……林いつぱい虻蜂すがるのふるひ……
いづれにしてもこのへんは
半蔭地ハーフシエードの標本なので
羊歯類などの培養には
申しぶんない條件ぞろひ
  ……ひかつて華奢にひるがへるのは何鳥だ……
水いろのそら白い雲
すつかりアカシヤづくりになつた
  ……こんどは蝉の瓦斯発動機ガスエンジンが林をめぐり
    日は青いモザイクになつて揺らめく……
鳥はどこかで
青じろい尖舌シタを出すことをかんがへてるぞ
      (おお栗樹カスタネア 花ちし
       なれをあざみてなにかせん)
  ……でも古臭いスペクトル
    飾禾草オーナメンタルグラスの穂! ……
風がにはかに吹きだすと
暗い虹だの顫えるなみが
息もつけなくなるくらゐ
そこらいつぱいひかり出す
それはちいさな蜘蛛の巣だ
半透明な緑の蜘蛛が
森いつぱいにミクロトームを装置して
虫のくるのを待つてゐる
にもかゝはらず虫はどんどん飛んでゐる
あのありふれた百が単位の羽虫の群が
みんなちいさな弧光燈アークライトといふやうに
さかさになつたり斜めになつたり
自由自在に一生けんめい飛んでゐる
それもあゝまで本気で飛べば
公算論のいかものなどは
もう誰にしろ持ち出せない
むしろ情に富むものは、
一ぴきごとに傳記を書くといふかもしれん
      (おゝ栗樹カスタネア 花去りて
       その實はなほしはるかなり)
鳥がどこかで
また青じろい尖舌シタを出す