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     谷の昧爽に関する童話風の構想(作品第一七九番)

草穂の影も黒く落ち
おほばこのスペイドも並んで映る
この清澄な月の昧爽ちかく
楢の木立の白いゴシツク回廊や
あゝ降るやうな虫のジロフオン

北いつぱいの星ぞらに
ぎざぎざの黒い嶺線が
手にとるやうに浮いてゐて
幾すじ白いパラフヰンを
つぎからつぎと噴いてゐる
   そこにもくもく月光を吸ふ
   蒼くくすんだ海綿体カステーラ
四方の天もいちめんの星
東銀河の聯邦の
ダイアモンドのトラストが
かくして置いた寶石を
みんないちどにあの鋼青の銀河の水に
ぶちまけたとでもいつたふう
  とほり天から降ろされた
  點々白い伐株と
  このきららかに降る蜘蛛の絲
橙いろと緑との
花粉ぐらゐの小さな星や
ぼんやり白い星けむり
  それもろもろの佛界に
  無量無邊のかたちあり
  あるひは圓きあるは扁
  あるは花臺のかたちなり
  世界のしかく住ずるや
  あるは覺者の意志により
  あるは衆生の業により
  また因縁にしたがへり
一つの星が
黒い露岩の向ふに沈み
山はつぎつぎそのでこぼこの嶺線から
パラフヰンの紐をとばしたり
突然銀の挨拶を
上流かみの仲間に抛げかけたり
    Astilbe argentium
    Astilbe platinicum
椈の脚から火星がのぞき
ひらめく萱や
日はいたやの梢にくだけ
木影の網を
わくらばのやうに飛ぶ蛾もある