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     浮世繪 北上山地の春(作品第七五番)


    (一)

ゐろりのはたる人はなく
雪沓やジュートの脚絆
白樺は焔をあげて
熱く酸つぱい樹液を噴けば
こどもはとんびの歌をうたつて
狸の毛皮を収穫する
打製石斧のかたちした
柱の列は煤でひかり
高くけはしい屋根裏には
いま朝餐の青いけむりがいつぱいで
大伽藍カセードラル穹隆ドームのやうに
一本の光の棒が射してゐる
そのなまめいた光象の底
つめたい春のうまやでは
かれ草や雪の反照
明るい丘の風を戀ひ
馬が蹄をどこどこ鳴らす

    (二)

やなぎは蜜の花を噴き
鳥もながれる丘丘を
馬はあやしく急いでゐる
      息熱いアングロアラヴ
      光つて華奢なサラブレツド
風の透明な楔形文字は
ごつごつ暗いくるみの枝に来てならし
またいぬがやや笹をゆすれば
    ふさふさ白い尾をひらめかす重挽馬
    あるひは巨きなとかげのやうに
    日を航海するハツクニー
馬はつぎつぎあらはれて
泥炭岩の稜を噛む
おぼろな雪融の流れをのぼり
孔雀の石のそらの下
にぎやかな光の市場
種馬検査所へつれられて行く