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     有明(作品第七三番)

あけがたになり
風のモナドがひしめき
高地もけむりだしたので
月は崇巌な麺麭パンの實に凍つて
はなやかに錫いろのそらにかゝれば
西空の白い積雲の上には
侘びた古い山彙の像が
鼠いろしてねむたくうかび
いまはひとつの花彩とも
見ようとおもつた盛岡が
わづかにうねる前丘の緑
つめたいあかつきのかげろふのなかに
青く巨きくひろがつて
アークライトの點綴や
町なみの氷燈の列
馥郁としてねむつてゐる
まことにこゝらのなほ雪を置くさびしい朝
すなはち三箇名しらぬ褐色の毬果をとつて
あめなる普香天子にさゝげ
西雲堆の平頂をのぞんで
母の北上山彙としめし
轉じて南方はてない嘉氣に
若く息づく耕土を期して
かはらぬ誠をそこに誓へば
ふたたび老ゆる北上川は
あるかなしに青じろくわたる天の香氣を
しづかにうけて滑つて行く
やぶうぐひすが鳴きはじめ
なきはじめてはしきりになき
すがれの草穂かすかにさやぐ