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     休息(作品第二九番)

中空なかぞらは晴れてうらゝかなのに
西の雪の上ばかり
ぼんやり白く淀むのは
水晶球のくもりのやう
  ……さむくねむたいひるのやすみ……
そこには暗い亂積雲が
古い洞窟人類の
方向のない Libido の像を
肖顔にがほのやうにいくつか掲げ
そのこつちではひばりの群が
いちめん漂ひ鳴いてゐる
  ……さむくてねむたい光のなかで
    古い戯曲の女主人公ヒロイン
    ひとりさびしくまことをちかふ……
氷と藍との東橄欖山地から
つめたい風が吹いてきて
つぎからつぎと水路をわたり
またあかしやの棘ある枝や
すがれの禾草を鳴らしたり
三本立ったよもぎの茎で
ふしぎな曲線カーヴを描いたりする
     (eccolo qua!)
風を無數の光の点が浮き沈み
亂積雲の群像は
いまゆるやかに北へながれる