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     早春獨白(作品第二五番)

黒髪もぬれ荷縄もぬれて
やうやくあなたが車室に来れば
ひるの電燈は雪ぞらにつき
窓のガラスはわんやり湯気に曇ります
   ……青じろい磐のあかりと
     暗んで過ぎるひばのむら……
身丈にちかい木炭すみすごを
地蔵菩薩のがんかなにかのやうに負ひ
山の襞もけぶつてならび
堰堤ダムもごうごう激してゐた
あの山そばのみぞれのみちを
あなたがひとりで走つてきて
この町行きの貨物列車にすがつたとき
その木炭すみすごの萱の根は
秋のしぐれのなかのやう
もいちど紅く燃えたのでした
  ……雨はすきとほつてまつすぐに降り
    雪はしづかに舞ひおりる
    あやしい春のみぞれです……
みぞれにぬれてつゝましやかにあなたが立てば
ひるの電燈は雪ぞらに燃え
ぼんやり曇る窓のこつちで
あなたは赤い捺染なつせんネルの一きれを
エヂプト風にかつぎにします
  ……氷期の巨きな吹雪のすえ
    ときどき町の瓦斯燈を侵して
    その住民を沈静にした……
わたくしの黒いしやつぽから
つめたくあかるい雫が降り
どんよりよどんだ雪ぐもの下に
黄いろなあかりを點じながら
電車はいつさんにはしります