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     晴天恣意(作品第一九番)
        (水沢緯度観測所にて)

つめたくうらゝかな蒼穹のはて
種山ヶ原の右肩のあたりに
白く巨きな佛頂状の
圓錐體が立ちますと
数字につかれたわたくしの眼は
ひとたびそれを異の空間の
秘密な塔とも愕ろきますが
畢竟あれは水と空気の散亂系
まばゆい冬の積雲です
とは云へそれは誰にとつてもそれだけだとは云へませぬ
あの天末の青らむま下
きらゝに氷と雪とを鎧ふ
古生山地の峯や尾根
盆地やすべての谷々には
おのおのにみな由緒ある樹や石塚があり
めいめい何か鬼神も棲むと傳へられ
もしもみだりにその樹を伐り
あるひは塚をはたけにひらき
乃至はそこらであんまりひどくイリスの花をとりますと
さてもかういふ無風の日なか
見掛けはしづかに盛りあげられた
あの玉髄の八雲のなかに
夢幻に人は連れゆかれ
見えない数個の手によつて
かゞやくそらにまつさかさまにつるされて
槍でぶつぶつ刺されたり
頭や胸をし潰されて
それからはげしい病気になると
さうひとびとはいまも信じて恐れます
さてわたくしには見えないながら
あの天頂線の蜘蛛線を
ひるの十四の星も截り
アンドロメダの連星も
しづかに過ぎるとおもはれる
そんなにもうるほひかゞやく
碧瑠璃の天でありますので
いまやわたくしのまなこも冴え
ふたたび陰気な扉を排し
あのくしやくしやの数字の前に
かゞみ込まうとするのです