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     空明と傷痍(作品第二番)

こう気の海の青びかりする底に立ち
いかにもさういふ敬虔な風に
一きれ白い紙巻煙草シガーレットを燃すことは
月のあかりやらんかんの陰畫
つめたい空明への貢献である。
  ……ところがおれの右の傷は
    鋼青いろの等寒線に
    わくわくわくわく囲まれてゐる……
しかればきみはピアノを獲るの企畫をやめて
かの中型のヴァイオルをこめ弾くべきである
燦々として析出される氷晶を
總身浴びるその謙虚なる直立は
營利の社團賞を懸けての廣告などに
きほひ出づるにふさはしからぬ
  ……ところがおれのてのひらからは
    血がまっ青に垂れてゐる……
  月をかすめる鳥の影
  電信ばしらのオルゴール
  泥岩を噛む水瓦斯と
  一列青いみをつくし
  ……てのひらの血は
    ぽけっとのなかで凍りながら
    たぶんぼんやり燐光をだす……
しかも結局きみがこれらの忠言を
気輕に採擇できぬとすれば
その厳粛な教會風の直立も
気海の底の一つの焦慮の工場に過ぎぬ
月賦で買った緑青いろの外套に
しめったルビーの火をともし
かすかな青いけむりをあげる
一つの焦慮の工場に過ぎぬ