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種山ヶ原の夜

時、一九二四年九月二日払暁近く
場処、岩手県種山ヶ原
人物、伊藤 奎一 一九歳
   日雇草刈一、
   日雇草刈二、
   放牧地見廻人
 (夢幻中)
   林務官
   楢樹霊一、
   楢樹霊二、
   樺樹霊
   柏樹霊
   雷神
幕があく
 舞台は夜の暗黒、中央に形ばかりの草小屋、屋根を楢の木の幹に くっつけたのに過ぎない。小さい焚火、伊藤奎一、日雇草刈一、二、 放牧地見廻人、火を囲んで座る。見廻人はけらを被ってまだ睡って ゐる。
 芒、をとこへしなどの草、丈高く 遥かに風の音、すべて北上山 地海抜八百米の 霧往来する払暁近くを暗示する。

伊藤、(暫らく遠い風の音を聞いた后)
まだ少し風の 方向むぎぁ、変ったやうだな。晴れるべ が。」

日雇一、「なぁに、あでにならなぃだんす。夜明げ近ぐづもな、風 もぶらぶらど行ったり来たりするもんだもす。」

伊藤「とにかくずゐぶん寒ぐなた。」

日雇二、「した、霽れるがもしれなぃぢゃぃ。斯う寒ぐなて 風も 西に変れば。」

日雇一、「なあに、あでにならなぃだぢゃ、昨日の日暮れ方の虹も 灰いろだたしさ。」

伊藤「ほに朝虹くらくて夕虹明りば霽れるて云ふんだな。」

日雇一、「まんつさう云ふんだなす。」

伊藤、「降るたっては高で知れだもんだな。」

日雇一、「そだんす まぁんつ、夜ぁ明げで、もやだんだに融げで、 お日さん出はて、草ぁ ぎんがめたら、その時ぁ 目っも んだど思ぁないやなぃんす。」

伊藤「霽れるさぃすだれば、朝飯前に、笹長根の入り口まで大丈夫 だな。」

日雇二、「はあ、(草刈一に)汝家うなえがら喜助あ来るが。」

草刈一「来るてさ、喜助も嘉っこも来る。昨日朝も来るだがてばだ ばだばだたたんとも、陸稲の草除らないやなくてさ。」

草刈二、「そいでぁは、少しばり降っても大丈夫だ。」

(やゝ間、右手でつつどりの声)

草刈二、一、「あんでぁ、ねぼけ鳩ぁ、いまころ。」

伊藤「火見で飛んで来たのだべが。」

草刈二、「きっともてそだな。だあ。」(鳥の遁げる音、見廻人に)

伊藤「ぢゃ、ゆべながらぐっさり睡ってらな。小林区〔せうりんく〕 さかざって歩てくたびれだべも。」

草刈一、「小林区の菊地さん歩ぐ人だもな、なぢょな崖〔がんけ〕 でも別段せぐでもなし 手こふるますて、さっさっさっさど歩ぐも な。」

草刈二、「この春なぃ。おれ、あの伊出堺の官民地の境界案内して 歩たもな。すたればやっぱり早いんだな。おれも荷物もはしょてら たんとも 息つゞがなぐなて 笹の葉ことって口さあでだもな。す たれば小林区ぁおれのごとふり見で笑ってよ。笑へだぢゃ。」

伊藤「あの人笹戸のどご払へ下げでべが。」

草刈一、「さあ、あそご払へ下げでるんだいばは橇道もあ るす。今年の冬は楽だ。」

草刈二、「木炭すみも下たふだな。」

草刈一、「うん、なんとが頼んで笹戸払ひ下げでもらないやなぢゃ。」

草刈二、「ほにさ、前の斎藤さんだいべは好がだな。濁り酒のませ るづと、よろごんできったきったと呑んであどぁこっちの云ふやう にしてけだたともな。」

伊藤(睡さうにうたふ)
「ばるこく ばららげ ぶらんど
           ぷらんどぶらんど
 らめてぃんぐりかるらっかんの
           さんのさんのさんの
 らあめてぃんぐりらめっさんの
           かんのかんのかんの
 だるだるびいどろ だるだるびいろ
 ただしいねがひはまことのちから
 すすめすすめ すすめやぶれかてよ」

(つつどり又啼く)

草刈二、「又来たな、鳩ぁ、火に迷て 寝れなぃのだな。」

草刈一、「やっぱり人懐がしのさ。」

草刈二「人でも鳥でも同じだな。」

(鳩しきりに啼く。羽音、去る)

伊藤(口笛で后の種山ヶ原の譜を吹く)

草刈一、「ずゐぶん暗い晩げだな、この霧ぁよっぽど深ぃがべもや。」

草刈二、「馬こもみんな今頃ぁ 家さ行ぎ着だな。」

草刈一、「今年ぁ好ぐ一疋も見なぐなたのもなぃがったな。」

  二、「うん、一昨年な、汝ぁ あの時 居だたが、あの夕日山 の方さ出はて 怪我してらた馬こよ、サラアブレッドでな、いゝ馬 だったば、一生不具だな。」

  一、「あの馬ぁ、先どな おら見だぢゃい。」

  二、「どごで、どごでよ、どごに居だであ、あの馬こぁ。」

  一、「六原でよ。」

  二、「何してら,何してらだぃ、あの馬こ。」

  一、「やっぱり少しびっこでな、農馬よ、肥料の車牽っぱてら けぁ。」

  二、「むぞやなな、やっぱり仕方なぃんだもな。」

(間、遥かの風の音の中からかすかな馬の鼻を鳴らすやうな声が聞 える。草刈一、二、均しく耳をそばだてる。音また聞える。)

  一、「馬だ。」

  二、「奇体だな、どごの馬だべ、いまごろ一疋も居だ筈ぁなぃ ぢゃな。」

  二、(見廻人を起す)「ぢゃ、起ぎろ、馬居だ、起ぎろ。」

見廻人(はね起きる、しばらくきき耳を立てる。)「馬だが。」

 一、二、「そだよだぢゃい。迷って来たんだな。」

伊藤「あら聴けなぃがたな。風が草の音だなぃがべが。」

見廻人「そだがもはすれなぃ。山づもなゆぐいろいろの音こするも んだもや。」

(声又する)

三人(同時に)「あ、馬だ、ホウ、」(小屋を出る)「ホウ、ホウ、」

(声がだんだん遠くなる、)

伊藤(独語)「なあに、馬の話してで、風馬の声に聞〔けえ〕だの だ。」(肱をまげて横臥する。火がだんだん細く、舞台は次第に暗 くなる。かすかな蝉の鳴くやうな声、この音が全夢幻中を支配する。)

舞台は青びかりを含み、草木の配置は変って、夢の中のたよりない 空間を表はす。
黒い影、何べんもそこらを擦過する。
林務官、白の夏服に傾斜儀を吊して、少し歪み、また偏った心持で、 舞台奥手を走って過ぎる。しばらくたって又右手から登場する。伊 藤礼をする。去る。
又左手から出る。クリノメーターを用ひる。

伊藤(呼び掛ける)「あのう、笹戸のどごの払ひ下げ出願してもい がべすか。」

林務官「あゝ、いゝだらう。」

伊藤「許可になるべすか。」

林務官「おれにはわからないよ。」

伊藤「もし許可になるどしたら一棚何ぼぐらぃでいがべす。」

林務官「おれにはわからないよ。」

伊藤「一棚五円ぐらゐでいがべすか。」

林務官「おれにはわからないよ。」

伊藤「笹戸の長根下楢の木ばかりだたすか。」

林  「楢の木だけぢゃなかったやうだよ。」

伊藤「柏の木だのあったたもな。」

林  「柏の木もあったやうだな。」

伊藤「さうすれば一棚五円では高価いな。」

林務官「お前は一体何を云ってるんだ。払ひ下げをするもしないも  何ともこっちでは云ってゐない。お前は少し山葡萄を食ひ過ぎた な。」(去る)

伊藤(考へる)「はでな、山葡萄食ふづど 酔んもんだったが は でな。」

楢樹霊一、二、樺樹霊 柏樹霊 徐かに登場、伊藤林務官を追って 行かうとしてこれに遭ひ 愕ひて佇立する。

 「あゝびっくりした。汝どぁ楢の樹だな。」

楢樹霊一、「夜づもな鳩だの鷹だの睡るもんだもな。」

伊藤(考へる)「夜づもな鳩だの鷹だの睡るもんだづな何のごとだ。」

楢樹霊二、「鳩だの鷹だの睡るもんだたていま夜だなぃがら仕方な ぃがべ。」

伊藤「今夜だなぃど、そんだ ほにな、何時頃だべ。」

樺樹霊(空を見る)「さうさな、お日さんの色ぁ、わすれぐさの花 このやうだはんて、まんつ 十一時前だべが。」

伊藤(空を見る)「ほにな、お日さん蜜柑色だな。なんたら今日の そら、ひょんたに青黒くて深くて海みだぃだべ。」

柏木霊(空を見る)「雨あがりでさ。」

伊藤「ほにさ、昨日ぁ雨ぁ降ったたな、さうせば、今日は昨日のつ づきだたべが。」

柏木霊「うん、いま今日のひるまさ。」

伊藤「草刈りしてしまたたべが。」

樺木霊(樹霊みなあざ哂ふ)「喜助だの嘉っこだの来てしてしまっ たけぁぢゃ。」

伊藤「すっかり了ったたな。まあんついがた。」

(風吹く、樹霊みなしきりに顫へる。)

楢 一、「この風ぁ吹いで行ぐづどカムチャッカで鮭ぁ取れるな。」

楢 二、「鮭づもな銀のこげらがってるな。」

樺樹霊「鮭のこげらずゐぶん堅いもんだぢゃい。」

柏  「朝まだれば笹長根の上の雲ぁ 鮭のこげらよりもっと光る ぢゃい。」

楢 一、「この風ぁ吹いで行ぐづどカムチャッカで鮭ぁとれる。」

伊藤(しづかに歩きながら)「何だが うなどの話ぁ わげわがら なぃぢゃい。さっぱりぼやっとして雲みだぃだぢゃい。」

楢二、「あだりまへさ、こったに雲かがて来たもの。」

伊藤「ほにな、ずゐぶんもや深ぐなって来たな。お日さんもまん円 こくて白い鏡みだぃだ。」

樺木霊「うん、お日さん円け銀の鏡だな、あの雲ぁまっ黒だ。ほう、 お日さんの下走せる走せる。」

伊藤「まだ降るな、早ぐ草刈ってしまなぃやなぃ。」(樹霊みな笑 ふ)

柏木霊「喜助だの嘉っこだの来て さきたすっかり了ったけぁぢゃ い。」

伊藤「ほんとにそだたべが。何だがおりゃ忘れでしまたもや。」

柏樹霊「ほんとぁ、おら、知らなぃぢゃい。草など刈ったが刈らな いが ほんとはおら知らなぃんじゃい。ほう又お日さん出はた。」

樺樹霊(からだをゆすり俄かに叫ぶ)
「もやかゞれば
 お日さん ぎんがぎんがの鏡」

楢樹霊一、「まっ黒雲ぉ 来れば
      お日さん ぱっと消える。」

楢樹霊二、「まっ黒雲ぉ行げば天の岩戸」

柏樹霊「天の岩戸の夜は明げで
    日天そらにいでませば
    天津神 国津神
    穂を出す草は出し急ぎ
    花咲ぐ草は咲ぎ急ぐ」

伊藤「何だ そいづぁ神楽だが。」

柏樹霊「何でもいがべぢゃ。うなだ、いづれ何さでも何どがかんど が名つけで一まどめにして引っ括て置ぐ気だもな。」

楢樹霊一「ばだらの神楽面白ぃな。」

柏樹霊「面白ぃな。こなぃださっぱり無ぐなたもな。」

楢樹霊「だぁれぁ、誰っても折角来てで 勝手次第なごどばがり 祈ってぐんだもな。権現さんも踊るどごだなぃがべぢゃ。」

樺樹霊「権現さんも悦ぶづどほんとに面白ぃな。口あんぎあんぎど 開いで 風だの木っ葉だのぐるぐるど廻してはね歩ぐもな。」

伊藤「何だが汝等うなどの話ぁ夢みだぃだぢゃぃ。」

樺樹霊「あだり前よ、もやあったにかゞて来たもの。」

伊藤「そたなはなしも夢みだぃだ。さきたもおらそったなごと聞い だやうな気する。」

樺樹霊「はじめで聞でで 前にもあたたと思ふもんだもや。夢づも な。」

伊藤「さうせばいま夢が。奇体だな。全体おれぁ草刈ってしまった たべが。」

(木霊一諸に高く笑ふ)

柏木霊(ひやかすやうに)
 「おらはおべだ、おぉらはおべだ。」

伊藤「おべだらどうが教へなぃが。ほんとにおら草刈ってしまたた が。」

柏木霊「おらはおべだ、おぉらはおべだ、
    草を刈ったが刈らなぃがも
    笹戸の長嶺の根っこのあだり
    払ひ下げるが下げなぃがも
    おらはおべだおぉらはおべだ。」

伊藤「笹戸の長嶺の根っこのあだりたら、払ひ下げが。払ひ下げる づが。どうが教へなぃが。」

柏木霊「おらはおべだ おぉらはおべだ、
    なんぼおべでもうっかり教へなぃ。」

伊藤「どうが教へなろ。なぢょにせば教へる。」

柏木霊「おらは教へなぃ、うっかり教へなぃ。」

伊藤「いゝぢゃ、そだら、教へらへなくても、面倒臭ぃ。」

木霊(同時に)
 「ごしゃだ ごしゃだ、すっかりごしゃだ、」

伊藤(笑ひ出す)
 「ごしゃがなぃぢゃ、教へだらいがべぢゃい。」

柏木霊「そだら教へらはんて一つ剣舞けんばい踊れ。」

伊藤「わがなぃぢゃ、剣もなぃし。」

「そだらうだれ。」

伊藤「どごや。」

「夜風のどごよ。」

 伊藤歌ふ、(途中でやめる)

「教へろ。」

「わがなぃぢゃ、お経までもやらなぃでで。」

「教へろ」

「そだら一づおらど約束さなぃが。」

伊藤「なぢょなごどさ。」

柏木霊「草ここのこらぃばがりむしれ。」(自分でむしる。)

伊藤「草むして何するのや。」

柏木霊「約束すづぎぁ草むすぶんだぢゃ。」

伊藤「そたなごとあたたか。」

樺木霊「あるてさ。さあ、めいめいしてわれぁの好ぎな様に結ぶこ だ。」(各々別々に結ぶ。)

伊藤(つりこまれて結びながら、)
「あ、忘れでらた、全体何の約束すのだた。」(樹霊 同時に笑ふ)

樺樹霊「その約束な、笹戸の長嶺下汝ぁ小林区がら払ひ下げしたら な、一本も木伐らなぃてよ。」

伊藤「おれ笹戸の長嶺下払ひ下げしたら一本も木伐らないこど。一 本も木伐らなぃばは山いづまでもこもんとしてでいゝな。水こも湧 だ。」

樹霊(みな悦ぶ)「さうだ さうだ。」

伊藤「すたはんてそれでいゝやうだな、それでも何だがどごだがひょんただな。一本も木伐らなぃば山こもんとしてる。それで いゝのだな。山こもんとしてれば立派でいゝな。立派でいいんとも たゞ木炭〔すみ〕焼ぎ山さ行ぐ路ぁぬがるくてて悪いな。ありゃ、 何でぁ、笹戸の長嶺払ひ下げしておら木炭焼ぐのだた、わあ、んたぢゃ、折角払ひ下げしてで木一本も伐らないでだらはじ めがら払ひ下げさなぃはいべがぢゃ。馬鹿臭ぃぢゃ。こったなもの。」

(草の環を投げ棄てる)

樹霊(同時に笑ふ)

柏樹霊「そだらそれでもいすさ。ほう何だが曇って来たな。」

樺樹霊「ほにさ、お日さんも見えなぃし 又降って来るな。」

伊藤「はでな、おれ草刈ってしまっただべが。」

樹霊(又一所にわらふ。)

楢樹霊一、「やめろったら、いまころ。さきたすっかり刈ってしま ったけぁな。」

伊藤「草刈ってしまったらば、早ぐ家さ持って行がなぃやなぃ。ぬ らすづど悪ぃ。」

楢樹霊二、「さがして見なぃが、そごらにあべあ。」

伊藤(心配さうにうろうろそこらをさがす)

樹霊(いっしょに囃す)

 「種山ヶ原の 雲の中で刈った草は
  どごさが置いだが 忘れだ 雨ぁふる
  種山ヶ原の せ高の芒あざみ
  刈ってで置ぎ わすれで雨ふる 雨ふる
  種山ヶ原の 霧の中で刈った草さ(足拍子)
  わすれ草も入ったが 忘れだ 雨ふる
  種山ヶ原の置ぎわすれの草のたばは
  どごがの長根で ぬれでる ぬれでる」

(踊り出す)

  種山ヶ原の 長嶺さ置いだ草は
  雲に持ってがれで 無ぐなる無ぐなる

(伊藤も踊り出す)

  種山ヶ原の 長嶺の上の雲を
  ぼっかげで見れば 無ぐなる無ぐなる」

(舞踏漸く甚しく 楽音だけになり
互いにホウと叫び合ひ 乱舞
俄に伊藤 奥手の背景の前に立ちどまって不審の風をする)

伊藤「ほう、誰だが寝でるぢゃい。赤ぃ着もの着たあぃづぁ。」

  楢樹霊一、進んで之をうかがひ 俄かに愕いて遁げて来る。

楢樹霊一、「お雷神なりがみさんだ、お雷神さんだ。かむな。 かむな。」

樹霊 「そいつさあだるなやぃ
    あだるなやぃ
    あだるやなぃぞ
    あだるやなぃぞ
    かむやなぃんぞ
    かむやなぃんぞ。」(互に警めて退く)

伊藤(しばらく考へて漸く思ひあたり 愕いて走って来やうとして まちがって足をふむ。)

雷神(烈しく立ちあがって叫ぶ)「誰だ 畜生ひとの手ふんづけだ な。どれだ 畜生、ぶっつぶすぞ。」(樹霊ふるえてたちすくみ  伊藤捕へられる。)

雷神「この野郎、焼っぷぐるぞ、粉にすぞ、けむりにすぞ。」烈し くあばれぐるぐる引き廻す、俄に青い電光と爆音、舞台まっくらに なる。)

(暗黒の中から声)

「睡ってらな、火もさっぱりでらな。」

(焚火もえあがる。伊藤その側に臥し草刈一火をもやし二座し、 見廻人入ってくる。)

草刈二、「さあすっかり霽れだ。起ぎでぢゃい。」

伊藤(起きて空を見る)「あゝ霽れだ 霽れだ。天の川まるっきり 廻ってしまったな。」

草刈二、「あれ、庚申さん、あそごさお出やってら。」

見廻人「あの大きな青い星ぁ明の明星だべすか。」

伊藤「はあ、あゝあ、いゝ夢見だ。馬だったすか。」

見廻人「いゝえ、おら谷まで行って水呑んで来たもす。」

草刈一、「もうは 明るぐなりががたな。草で来たも、あ ゝいゝな、北上の野原、雲下りでまるで沼みだぃだ。」

伊藤「あゝ あの電燈ぁ水沢だべが。町の人づぁまだまだねってら な。あゝ寒ぃ。」

草刈二、「さあ、座って寒がってるよりはじめるすか。」

伊藤「はあ。」(草刈一鎌を取り出す
        鳥なく。)