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黒溝台

曹長A 上等兵B 一等卒C
    上等兵D、

第一場 夜、A斥候より帰る。敵の遺棄したる酒樽あり 齎し来れ」
    とBに命ず。B抗辯す。結局持ち来る。みな酔ふ。中隊長
    巡視。軍医。

第二場 午后

第三場 夜
    兵等或は衣を繕ひ或は手簡を記す。
    会談、
    消燈
    C、歩哨に立つ。東方に向て祈る。遥に子らの遊び歌へる
    声。その声やがて敵陣の軍歌或は俚謡たるを知る。
    遠方にて斥候戦と思はるゝ銃声次第に拡がり烈しくなりて
    遂に全線の戦闘となる。
        「こんな馬鹿げた戦闘があるか。
         こんな馬鹿げた戦闘があるか。」

 

第七場 会戦X日
    惨憺たる敗軍、
     前幕中の主なる人物影既になし
    破損せる屋壁、
     一等卒C、上等兵B、壁によりて死守す。負傷す。
  C、「いまここでかうしてゐるのはおれの幽霊でないか。」
    「そんな縁起でもないことを云ふな それぶて、ぶて。」
    死者より弾丸をとりて打つ、
  C、幻覚的となる
    「もう大丈夫だ。わが軍の勝利だ。万歳、第A旅団が敵を
    背後から包囲したぞ。」
    「馬鹿云ふな、しっかりしろ。第A旅団は旅順と南山で全
    滅してるんでないか。」
    「万歳、第D聯隊もだ。わが……」死す。
      敵自ら退く。追撃令下る。