目次へ  縦書き

精白に搗粉を用ふることの可否に就て

 精白に搗粉を使用するとしないでは、その工程と費用に非常な差 がありますので、経済的立場からは、これを用ひること当然得策で ありますが、衛生上の見地からは一般に搗粉を用ひて精白した飯米 は有害であるとされ、殊に近年栄養研究所で混砂米が胃癌の有力な 原因であらうといふやうなことを主張しましてから、搗粉の使用を 法律で禁ぜよとの議論さへ処々より起り近頃では需要家は白米の購 入に際して、一々その無砂搗であるや否やを問ひ訊すやうにさへな りましたので、搗粉を使用せられる精穀家の方々は、何か四面楚歌 の声といふやうな感じもせられ、結局は不経済で困難な無砂搗を標 榜しなければならないやうな状態に立ち至りました。

 然るに上来の議論に於て搗粉の害と称したものは三四年前迄殆ん どその全部でさへあった房州砂のそれに該当するものであります。 房州砂といふのは浮岩質凝灰岩乃至火山灰等を乾かして砕いたもの で、大部分珪酸から成り、中には針状の玻璃質物や石英の斑晶など も入って居りますから、これを用ひて精白した米は、もしその水洗 が不充分でありましたら、丁度ガラスの粉を食ったと同じ害をなす 場合なしとも全く云へないのであります。ところが同じく搗粉とい っても、只今まで房州砂の原料のない処や、或は単に化粧粉として 用ひられてゐた石灰石粉(大理石粉)でありましたら、事情は全く 之と異るものであります。

 最近の実験によれば原料たる石灰岩が良質なる場合には、これを 用ひて精白した米は、水洗すればその鉱物質の量に於て無砂搗に異 ならざるは勿論、寧ろその微量に残存する石灰は、白米中に含有さ れる苦土の毒を消す作用さへあって、却って無砂搗米よりも衛生的 であるといふのであります。蓋し、栄養資料中の苦土が石灰に比し ある程度以上多くなりますと、人畜乃至植物の成育をさへ害し、こ の程度をば石灰率と称し、その価は各生物によって異なるために、 人畜の栄養乃至植物の肥培に於てこの点常に注意を要することは既 にご了知のことと存じます。にも係はらず、若し単に搗粉が一般に 害ありと云はば、実に玉石混同の素人論と申すより外ありません。 之等に関しては左の論文を直接ご参照いただかば事自ら明白と存じ ます。

「余は此等の搗粉を使用せる白米と、同じ程度に無砂搗にせるもの とに就き、普通に炊飯する場合に於けるが如く、水洗して幾何の搗 粉が残留するやを知らんと欲し、原白米及び水洗白米に於ける灰分 の含量を比較したるに、次の如き結果を得たのである。
搗粉の種類  原白米    水洗白米
無砂搗    〇.六〇%  〇.三六%
珪砂     〇.七二%  〇.三六%
石灰石粉   〇.八一%  〇.四〇%
更に灰分中に含有せらるる成分塩酸に不溶解の部分を定量せしに次 の如し。
       原白米    水洗白米
無砂搗    〇.〇〇八% 〇.〇〇三%
珪砂     〇.一〇四% 〇.〇〇三%
石灰石粉   〇.〇〇九% 〇.〇〇二%
    ─中略─
 更に之れを石灰石粉に就て見るに水洗後に於て其の一部分が残留 するも何等の有害なる結果を来す虞あるものでは無いのであって、 寧ろ植物の成分として有用なる石灰の増量を来し、白米中に過量に 存在する苦土との割合を改善するに至るのである。今此の関係を珪 砂使用の白米及び無砂搗のものと比較するに次の様である。但し水 洗後の乾物百分中に存在する石灰及び苦土の量と此等両者の割合と を示すものである。
搗粉の種類  石灰     苦土    石灰に対する苦土
無砂搗    〇.〇一   〇.〇四   四
珪砂     〇.〇一   〇.〇四   四
石灰石粉   〇.〇二   〇.〇四   二
即ち石灰に対する苦土の割合は石灰石粉使用の場合は之れを使用せ ざる場合に比して半減するを知るのである。
 斯の如く搗粉として石灰石粉を使用すれば白米に何等の有害なる 成分が混入しないのみならず、白米に於ける石灰の含量を増加して 苦土との割合をよりよくする点より見て、其の使用を排すべき何等 の理由をも認むること能はざるのみならず、之れが使用を薦めなけ ればならないことになるのである。」
飯米の精白法に就て 農学博士 村松舜祐 糧食研究 第六七号一 二及一三頁 同教授の御快諾に仍って転載……

 勿論之を経済的方面から見ますれば、搗粉を用ひる方が無砂搗よ りも得なことはもとより、更に石灰石粉を用ひた方が珪砂搗よりも 経済的であることは、名古屋衛生試験所の三堀技師も実験発表せら れ村松博士もご試験せられてあります。 即ち

「余が丸六精米機を用ひて、三斗の玄米を同一程度に精白するに要 する時間と電力とを測定したる結果は次の如くである。
搗粉の種類  所要時間   所要電力
無砂搗     五四分  一.九キロワット時
珪砂使用    三三分  一.一キロワット時
石灰石粉使用  三〇分  一.〇キロワット時」
の如くであります。

 次には搗精によって生ずる米糠の問題でありますが、之亦従来の 見解では、之を家畜に与ふれば有害であるとして、混砂搗による稍 々白色を帯びた米糠は、単に肥料にのみ用ひられたのであります。 然も飼料としての価格は五割乃至七割も高価なので、あらゆる精米 家はみな米糠の白色なることを惟恐れ、飽迄無砂搗を以て貴しとい たしました。

 実際房州砂の混った米糠を与へて馬が下痢した例はしばしばあり ました。のみならず肥料としても房州砂では何等有効な成分を含む ものではありませんから、いづれの点から見てもその低価であった ことは無理もない次第であります。然るに之も石灰石粉を用ひたも のならば単に家畜家禽に害がないのみならず必須な石灰を補給して、 一般に之を強健ならしむるは勿論、馬の骨軟症、牛の結核を豫防し、 豚を肥らせ、鶏に産卵数を増さしめるの手段ともなり、肥料として も一俵に百匁内外入ってゐる炭酸石灰は米糠の分解を助けその分解 によって生ずる有機酸を中和し、且つその石灰を植物に供給するこ とになるのであります。

参照「搗精に要する石灰石粉の量は一石に対し約百五十匁にてよく、 斯る割合に於て使用する場合に得らるる糠にありては、石灰の含量 を増加して(糠中に炭酸石灰として三.七を含む)苦土に対する石 灰の割合は無砂搗糠の一.一七なるに、石灰石粉を使用せるものに 於ては二.一四となるが故に、之れを家畜の飼料として用ひ得べき のみならず、石灰の給原としての利益も認めなければならないので ある。」(前掲論文)

斯て博士の結論によれば次の如くであります。

「之れによりて見れば搗粉として、石灰石粉用ふれば容易であって、 電力及び労力を要すること少なく、白米に残存する胚子の割合に大 差なきのみならず、白米に於ける石灰の含量多きものが得られる事 実等より見て、無砂搗を可とする何等の理由も発見することができ ないのである。更に此等の食用によりて栄養上に於ける相違を来す や否やを知る為めに鼠及び鶏に就て其の栄養試験を行ひたるに之れ 亦明かなる相違を認め得るに至らなかったのである。故に『飯米の 精白法は無砂搗にせざるべからざるか』の問題に対する結論は搗粉 として石灰石粉を使用すれば飯米の精白は無砂搗にする必要なきの みならず、無砂搗を薦むることは栄養上より見るも又経済上よりす るも決して合理的のことで無いのである。」

 尚此の外に処々の実際家側から戴きましたご批評を併せて以上を 要約しまするに、石灰石粉を用ひて精白すれば

一、搗精に時間及び電力を要すること少く、
二、熱を発することなく、
三、仍って得らるる白米は無害であり、
四、寧ろその苦土の毒性を解消し、
五、醸造用としては糖化一様に速かに行はれ、
六、半搗米としては煮熱に火力を要すること少く、
七、少量の搗粉で足り,(房州砂の半分位)
八、その米糠は家畜家禽に無害であり、
九、却ってその必要の石灰を補給すると共に、
十、その苦土の害を除く

といふことになります。

     弊工場産搗に就て

 就て早速宣伝めきますが弊工場で搗粉の原料に使用する石灰岩の 成分は、岩手県農事試験場と盛岡高等農林学校の分析では炭酸石灰 九二乃至九六%を示し荒川鉱山の分析では、炭酸石灰九七%珪酸〇 .三六%鉄〇.四六%苦土〇.七九%アルカリ〇.二四%でありま して殊に苦土と珪酸に甚だ乏しく石灰に最も富むこと決定的の特徴 であります。如何に石灰石粉でも苦土や珪酸が多くてはその搗粉と しての価値甚だ疑はしいものであります。のみならずその原料たる 石灰岩の組織が非晶質稠密なために石粉製造には手数を要しますが 精白の際には実によく搗けるのであります。それで弊工場産の搗粉 をご使用のお方はその白米は最も衛生的な石灰搗きとしてどしどし お売り下さるは勿論、殊に米糠の方へは只今意匠登録中の荷札(レ ッテル)がありますからそれを俵に附けて、無砂搗の米糠よりも寧 ろ高価にお捌きをねがひたいのでございます。私共の工場はその発 生の歴史上一種特別な仕組みになって居りまして重役給だの事務費 だの配当だの殆んど要らず唯々天与の富源と絶好の地利とを擁し、 各位御眷願の限り、肥料用炭酸石灰と共に殆んど生産原価を以てご 供給申しあげます。何卒これらの点色々御詮考の上、私共にこの意 欲の存する処を察せられ、永久にご締結を得ますれば、幸甚之に加 ふるものなき次第でございます。

東北砕石工場

石灰搗きの米が胃癌の原因ならば、豆腐も胃癌の原因でせう。
石灰搗きの米糠が馬に有害ならば、それは骨無し馬でせう。