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貴工場に対する献策

一、販売名称に就て。

石灰岩を粉砕した肥料を、従来石灰岩抹石灰岩粉石灰石粉等と称し て居りますが、これらの名称は、どうもまだ一般購売者の理解が進 まない為に不利かと思はれます。則ち「石のままでは利くまい。」 とか「石なら山にいくらでもある。」とかいった風の考が多いので あります。そこで充分に購売慾を刺激し、且つ本品の実際的価値を 示すには「肥料用炭酸石灰」の名称がいゝと前々から考へて居りま すがいかがでせうか。炭酸石灰と云へば所謂薬用の沈降炭酸石灰の 稍々粗なるものといふ風の感じでどこか肥料としては貴重なもので もあり、利目もあるといふ心持ちがいたします。法律的にもこの名 称は差支あるまいと思ひます。何分石灰岩は炭酸石灰が大部分なの ですから。

二、販価に就て。

本品は元来廉価を特徴とするのでありますが、これは実はご承知の 通り、微細ないゝものを作るとすれば、焼灼工程に比して、そんな に廉く仕上る訳でもありません。けれども購売者の方では、少し理 解が進んで来ると、燃料代をそっくりそのまゝ廉く仕上るやうに考 へます。尤もいまの消石灰等の価格は相当に高くなってゐますが、 相当の設備でコークスでどんどん灼くやうになると可成競争が要り ます。それに対しては、いまのうちから粒子の大小や篩別の有無に よって、数段の等級をつけ、大に廉価なものも作って置いてそれは 牧草地草地専用とでもして置くがいゝと思ひます。

尚御参考までですが、他から価格の廉否の照会があるでせうから申 し上げて置きますが、本品の価格は、
a、石灰含量の点から云へば消石灰の四分の三、次に
b、速効の程度から云へば、最微粒のもの即ち撒布後二三回の雨に よって全く粒子が溶解するやうなものは消石灰と同価格、それから だんだん粒が大きくなるに従って廉くなり遂に直径五分なんて云ふ のはまづ肥料用としては無価値になります。
c、けれども栽培の技術としては、広告文にも書きましたやうに速 く利くからいゝといふものではありませんので、栽培の目的にちゃ うど適ふ直径一ミリあたりまでは消石灰と同価値と思ひます。即ち、
d、一ミリ以下のものは消石灰が十貫一円二十銭ならば九十銭まで はよからうと思ひます。勿論多量に売る為、社会奉仕の為にどしど し廉くされるのは重々願ふ所であります。

三、品質に就て。

製品の品質は、主に原石中の石灰含量や不純物の性質、粒子の微細 度と粒子の形態に依って定まります。

原石に就いては石灰含量の二%や三%のことは問題ではありません。 独乙ではわざわざ泥灰石さへ使ってゐます。

泥灰石でもこの辺にありますから、誰かゞほしいと云ったらそれで お作りになるのもいゝでせう。たゞ多量の炭酸苦土を含むのはいけ ないと思ひます。それはまだ定説ではありませんが石灰率といふ学 説があって技術者連中が何か云ひますから。尤もうんと苦土を含ん だものは別に応用があります。原石の色も問題ではありませんが、 砕いたあとまでその色があまり濃いやうだとどうしても、購売者に は粗悪に見えます。原石が晶質で特に珪酸を含むことが少なければ 粉砕の工程は速いと思ひます。ご実験を願ひます。

細微度は既に前回にも申し上げた通りであります。粒子の形態も前 に申し上げてありますが、稜角多く裂罅の多いものほど速効であり ます。円い粒子を作りますと仲々砕け難くなります。これらもご実 験ねがひます。頑固な技術者を説服するには、これらのご実験書類 が一番です。

四、販路の開拓に就て。

貴工場の現在の位置は、実に東北に最たるものでありますが、今後 農業の進歩に伴れてだんだん競争者もできて来ることはご覚悟がい ります。同時にその頃は需要も今の何十倍でありませう。盛岡の電 気会社や亜炭会社でも大正十年頃には、この事業も考へたのですが、 どうも岩手軽鉄に輸送力がなく且つそちらの技術者が居なかったの で止めたのであります。

それで沢山の工場が出来ますと、或る程度の設備をした上は、競争 は運賃の小、即ち距離の問題になりますので、今折角遠いところへ ご宣伝になってもあとでもっと近くに工場が出来ると折角こっちの 骨折りを横から奪はれることになります。そこで地質図と鉄道運輸 図とを按じますと、貴工場としては、宮城県の大部分、岩手県の南 半、(並に多分は山形県の北半)に宣伝なさるのが得策と存じます。 将来の競争者としては、花釜線の鱒沢駅(恐らくは十年後)横黒線 の仙人(これは大敵ですが恐らくは五年後)八戸線の鮫附近、東北 本線の福岡附近、福島県の南部のある地点位のものでありませう。 いまは大阪や日立から沢山出てゐるやうですが。

五、新肥料の製造に就て。(並に商標に就て)

けれども上述のやうな次第では、事業としては甚遺憾な点がありま すので、何か他の競争を許さないやうにやって行きたいのでありま す。それには本品を原料として他の有用な肥料を簡単に作成する案 を得てその製造権を登録したいのであります。関農学博士は消石灰 を半々に混じて販売することを云はれたことがありますがこれはど うも損だと思ひます。これらの点に就ては充分御考慮の要があると 思ひます。

尚新肥料でなくてもいまの製品を単に篩っただけでも何か商標をつ けて置かれることが得策であります。一昨年八戸から俵へ詰めて非 常に粗悪な岩塊の入ったものが花巻に入って私も大へん迷惑したこ とがあります。◇岩印とか○東印とか適宜御工風をねがひます。包 装に押すか張りつけるかなさるといゝと思ひます。中味にも一枚入 れる方がいゝと思ひます。木版でいゝでせうから。

六、貴工場の設備でできる他の事業に就て。

製造に余力のある際他のお仕事は沢山あるでせうがいま花巻でも計 画されたりしてゐる大理石や一般飾石の研磨の事業は今後洋風建築 の発達と一般好尚の進歩に伴って充分間に合ふと思ひます。原料は 大船渡線には相当ある筈であります。これらはほんの附けたりであ ります。

以上すべて御承知のこととは存じましたが、私も数年来調査して来 たことでありますので、何かお役に立てば甚幸甚であります。

(それから広告文を書いてから気が付きましたが、貴工場では消石 灰も生石灰も作られるか扱はれるかしてゐらっしゃるやうですがこ れは実にいゝと思ひます。三種の石灰を持ってゐて、特に炭酸石灰 が実情に適するから使ってくれといふのは大いに強みです。)