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[99] 1918年12月29日 宮澤政次郎あて 封緘葉書

   花巻川口町豊沢町 宮澤政次郎様 至急
   十二月二十九日 東京市小石川区雑司ヶ谷一三 雲台館内

拝啓昨日二木博士の診察有之その結果は次の如くに御座候。

『チブス菌は検出せられざりしも熱型によれば全くチブスなり。気管支より上部に病状あること。即ち肺炎なること。之は断言し得。心臓に辮膜病あるも今回は全く心配無かるべし。扨て尚伝染室に在るを要し今後の病状は先づ大抵は減退なるべきも万一更に昂進する場合なしと言ひ難し。』

扨て右様の次第に有之御命令の如く今夕帰宅の積りに御座候処

 病人は尚暫らく私共の在京を望み、寮監にも帰宅の由申し候処一寸意外の様に見受けられ候。(之は家人の帰りたる後にて又色々の差入物とか病院勘定とか見舞とか寮監の仕事と相成るべく一旦出京しつつ之を又学校に托するは如何にも一寸意外の次第に有之べく候。)又看護婦への心付け等を病人が毎々考ふるは宜しからざるべく医師に相談仕り候処一人丈残りて万一の場合は電報を以てする方宜しかるべくとの事に御座候。

右様の次第に御座候問私共の中一人丈当地に止まりたく私共の健康に就ては今日迄の処は更に変り無之今後とても病院に永居せず他に外出せず専に注意仕るべく候間御心配は勿論ながら何卒聞届下され度候。

又過日は父上には私に止まる様御話し有之候へども母上にはとても心配にて帰宅致し兼ねる趣に有之候。然れども母上にては用達等も面倒なる次第に御座候。但し之は下宿に頼みても宜しかるべく可成は母上様止り、私帰宅候様御命令下され度候。

尚御諒解願ひたきは私帰宅致し度は単に母上の止まる為にのみ有之更に我意無之次第に御座候。先は右迄。御返事は電報に奉願候。

敬具