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[95] 1918年12月16日 保阪嘉内あて 葉書

(表)山梨県北巨摩郡駒井村 保阪嘉内様
   十二月十六日 巌手県花巻川口町 宮澤賢治

「私は求めることにしばらく労れ、」と書いたと思ひます。但しあなたに求めるものはあなたの私を起らないことです。今年も匆々暮れます。

 アンデルゼンの物語を勉強しながら次の歌をうたひました。

「聞けよ。」又月は語りぬやさしくもアンデルゼンの月は語りぬ。

みなそこの黒き藻はみな月光にあやしき腕をさしのぶるなり。

ましろなるはねも融け行き白鳥は群をはなれて海に下りぬ

わだつみにねたみは起り青色きほのほの如く白鳥に寄す

あかっきの瑠璃光れぱしらしらとアンデルゼンの月は沈みぬ。

白鳥のつばさは張られかゞやける琥珀のそらにひたのぼり行く