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[480] 1933年7月26日 石川善二郎あて 下書

「烏射亭随筆」四部ご頒布を得まして寔に辱けなくお礼申し上げます。巻を抜いて今更に故人の高邁純潔の心情胸に迫るを覚え思はず声を挙げて泣きました。

昨年一月ご来花の時のご様子では、永い間のご努力も漸く酬いられ、最早そのやうなもの強て望まれずとも、世間的な志をも遠からず達せられるやうお見受けいたし、ご前途は唯もう明るいものとひそかに祝し上げ居りました。それが突然にあのご災難なので実に何とも申しあげ様もなくお傷はしく存じます。

今頃こんな事改めて申しあげたりいたしましてお申し訳けもございません。虔んで貴方様御母上様皆々様のご健勝を祈りあげ擱筆いします。

   昭和八年七月廿六日

宮沢賢治

 石川善二郎様