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[467] 1933年3月30日 森佐一あて 封書

(表)盛岡市惣門 森惣一様 平安
(裏)三月卅日 花巻町豊沢町 宮沢賢治(封印)〆

「天才人」いたゞき、じつに、ぢくぢくと冷汗をながしました。どうも結局あなたに負けてしまひました。しかし病気のひしげた気持ちを引き直してやらうといろいろなさるあなたのご好意がわからぬ訳ではありません。お互ひいよいよしっかりやりませう。

男のお子さんをお持ちになったとのことお芽出たう存じます。私のうちではみんな女ばかりです。それでもなかなかみんな女のやうでなく、いぢめられてゐます。

昨夜叔父が来て金田一光の予審の証人に喚ばれたとのことで、何か談して行きました。花巻では大正五年にちやうど今度の小さいやうなものがあり、すっかり同じ情景をこれで二度見ます。易の
 といふ原理面白く思ひます。みんなが「吉」だと思ってゐるときはすでに「吝」へ入ってゐてもう逆行は容易ではなく、「凶」を悲しむときはすでに「悔」に属し、明日の清楚純情な福徳を約するといふ科学的にとてもいゝと思ひます。希って常に凶悔の間に身を処するものは甚自在であると思ったりします。古風な点お笑ひ下すってかまひません。

同人の方々によろしく。まづは。