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[459] 1933年3月7日 母木光あて 封書

(表)岩手県御所村上南畑 母木光様
(裏)三月七日 花巻町 宮沢賢治

お手紙まことにありがたく拝誦いたしました。

石川さんの詩集は吉田一穂さんが「新詩論」の編輯所から三月一日に発刊するやうな模様でしたが、まだ出ませんやうです。ほかに随筆類を錫木碧氏等で集められたとのことですがこちらはどうなりましたか、石川さんも去年夏にはあなたの方へも行かれる考だったのでせうが、あゝいふことになってしまって何ともどうもいまだに考がまとまりません。

当地方も同じく陰気な非常時の冬でした。毎日何にもつかない僅かばかりの仕事をしてこの数ヶ月を渉りました。早く暖かくなって少しは外も歩けるやうにとばかり考へて居ります。「詩人時代」にはあなたは前は盛んにお出しになったでせうが、もっといかゞですか。佐藤一英さんの「童話文学」二輯まででてあと話をきゝませんがやっぱり少部数では間に合はないのでせう。童話も全く行き詰りのやうです。こゝを突破して一つ新生面をお開きください。御地のやうな場所では自然への精密な観察は新らしい童話の資源だらうと存じます。明日あたり本を何かお送りいたしたいと思ひますが、もしご不用の品でしたらそちらで適宜ご処置ねがひあげます。私も一昨年以来殆んど勉強もできで弱りきって居ります。

   三月七日

宮沢賢治

  母木 光様

  薬草のご研究いかゞですか。県農会の小原忠君を序での節にお訪ね下すったら何かご便利があると思ひます。