目次へ  縦書き

[43] 1918年2月1日 宮澤政次郎あて 封書

   (表)花巻川口町 宮澤政次郎様
   (裏)盛岡市内丸二九 玉井方 宮澤賢治 (封印)〆

謹啓 御葉書拝見仕り候 先日は折角と御考慮の上色々と御諭し下され候にも係らず一一と御返答申し上げ誠に御申し訳け無之存じ居り候 扨て本日関教授より他用の序に卒業後の方針等御尋ね有之最初は就職希望の如く思ひ居られ候も次第に次の如き相談を致され候

 それは未だ確定無之事に候へども稗貫郡にて今春より三ケ年の予定にて土性の調査を致すとの事にて之を学校に依頼し来るべきとの事に御座候。

就ては教授の御考にては小生同級の鶴見氏又は小生の中一人研究生として残り費用は大体稗貫郡より得て本土性の調査を行ひ他によき就職口のあり次第之に廻すとの事に御座候

右鶴見氏は折角希望に御座候へども人撰は教授にて致さるゝとの事に候

扨て右は兼て父上の御勧め下され候如く研究科にも残り稗貫郡の仕事にても有之又研究中も大体月二十円位は得べく誠に好適なる様に]御座候へども小生は之を望み兼ね申し候 研究科には残り候とも土性の調査のみにては将来実業に入る為には殆ど仕方なく農場、開墾ならば免に角差当り化学工業的方面に向ふには全く別方面の事に有之候 又右は一反就務後は到底他に代る人覚束なく今年よりは学制も改まり候為多分は三年間自由に働き兼ね申すべく候 殊に稗貫郡より費用を得ることは如何かと存ぜられ候

依て仮令研究生として残るにても膠状化学、有機化学ならば兎も角全体土性調査のみにては研究とは名のみにて単に分析及び調査に過ぎ申さず候 重ね重ね無理のみ御願致し候へども若し学校に残るならば自費にて諸方会社の見学、又は改良法の実験のみを為し得る様暫らく御助け下され様はゞ誠に幸甚に御座候

次に徴兵の事に御座候へども右に就ては折角御思案下され候処重ねて申し兼ね候へども来春に延し候は何としても不利の様に御座候 斯る問題はその為仮令結果悪くとも本人に御任せ下され候方皆々の心持も納まり候間何卒今春の事と御許し下され度候 仮令、半年一年学校に残るとしても然く致し下され候はゞ入営も早く来々年よりは大低自由に働き得る事に御座候 右御願候は左の理由に御座候

一、小生の只今の信ずる所により

一、父上の御勧めに従ひ万一却て戦死等の事有之候とき誠に御互に不本意なるにより、

一、御心配を更に来年に延ばす事御申し訳なきにより、

一、就れにせよ今後の方針を早く定めたきにより、

一、若し首尾よく除隊し得るときは直ちに来々年より自由に幾分たりとも御役に立ち得るにより、

一、小生の今年検査を受くるにならひて本年のの検査を恐れざる友人等あるにより申し候

以上色々御怒りを戴く様の事のみ申し上げ候へども最早今度限り御願ひ上げ候間今度は就れなりとも御処知下され何卒御返事願ひ上げ候

小生の只今の目算にては三月中は勉強四月に至りて学校の図書館に通ひ傍々岩手郡の土性調査に手伝ひ、五月検査を受け合格ならば十一月迄学校にて勉強を許し戴き或は花巻にて行ひ得る飴製造工業の下地位を作り置き十二月より入営、若し不合格ならば六月迄学校の土性調査に手伝ひ旁々幾分の見学をも致し七月頃よりは沃度製造或は海草灰の製造、或は木材乾溜乃至は炭焼業に直手致しつゝ今後の研究を致したくと存じ候

明日は酪農の本試験に有之取り急ぎ候御願申し上げ候

先は                    匆々

大正七年二月一日

父上様                    賢治拝