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[422a] 1932年6月22日 仲館武左衛門あて 下書

  六月廿二日      仲館武左衛門様         宮沢賢治拝      風邪臥床中鉛筆書き被下御免度候

拜復 御親切なる御手紙を賜はり難有御礼申上候 承れば尊台此の度既成宗教の垢を抜きて一丸としたる大宗教御啓発の趣御本懐斯事と存じ候 但し昨年満州事変以来東北地方殊に青森県より宮城県に亘りて馮霊現象に属すると思はるゝ新迷信宗教の名を以て旗を挙げたるもの枚挙に暇なき由佐々木喜善氏より承はり此等と混同せらるゝ様の事有之ては甚御不本意と存候儘何分の慎重なる御用意を切に奉仰候。

 次に小生儀前年御目にかゝりし夏、気管支炎より肺炎肋膜炎を患ひ花巻の実家に運ばれ、九死に一生を得て一昨年より昨年は漸く恢復、一肥料工場の嘱託として病后を働きおり候処昨秋再び病み今春癒え尚加療中に御座候。諸方の神託等によれば先祖の意志と正反対のことをなし、父母に弓を引きたる為との事尤もと存じ候。然れども再び健康を得ば父母の許しのもとに家を離れたくと存じおり候。

 尚御心配の何か小生身辺の事別に心当りも無之、若しや旧名高瀬女史の件なれば、神明御照覧、私の方は終始普通の訪客として遇したるのみに有之、御安神願奉度、却って新宗教の開祖たる尊台をして聞き込みたることありなどの俗語を為さしめたるをうらむ次第に御座候。この語は岡っ引きの用ふる言葉に御座候。呵々。妄言多謝。

敬具