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[415] 1932年5月10日 母木光あて 封書

(表)岩手郡御所村上南畑 母木光様
(裏)十日 花巻町豊沢町 宮沢金物店内 宮沢賢治

  五月十日

お葉書拝誦いたしました。当地ご来遊の趣、お待ちいたして居ります。たゞ昨冬肺炎を再び患ひましていまだに起居談話自由ならず、まことに失礼な形でお目にかゝる次第ですから何卒その辺お容し置きねがひます。私の方は何と申しても自称の心象スケッチ屋で詩とは局外のつもりで今まで殆んど詩人たちとのおつき合ひもしてゐないのですから、もしそこをご諒察の上、あたかも画家が幻燈屋を訪問するやうな態度でお出かけ下さるなれぱ、私も息がつまりませんし大いに肝胆をひらけると思ふ次第です。どうも気管支などが悪いと少しの感情でも生理的にもてあましてしまふので困ります。ではまたその節。

  母木光様

  駅の玄関の横に青いバスが出てゐますから、それをご奮発になって「豊沢町金物屋のうち」と仰ってください。