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[282] 1930年11月18日 菊池信一あて 封書

(表)弘前歩兵第卅一聯隊第九中隊 菊池信一様
(裏)十一月十八日花巻町豊沢町 宮沢賢治(封印)〆

お手紙ありがたく拝誦いたしました。

あなたのご様子は弟からも聴き上等兵の候補者にもなってゐられるさうで実に安心いたしました。どうかもう一息ですから、おからだを気を付けてまた勢よく帰って来て村の為にお働きください。私もお蔭で一二度小さな風邪を引いたきり弟の留守も無事にすまし、この冬さへ越せばもう元の通り何をしてもいゝと医者も云ってゐます。たぶんは四月からは釜石へ水産製造の仕事へ雇はれて行くか例の石灰岩抹工場へ東磐井郡へ出るかも知れません。それも全く健康にさへなれぱどんなことをまた考へ出すか白分でも兄当がつきません。こちらも雪です。例年より寒いやうです。米はとれても廉くてみんな困ってゐるやうです。また書きます。