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[260] 1930年4月4日 澤里武治あて 封書

(表)上閉伊郡上郷村 上郷尋高小学校内 高橋武治様
(裏)四月四日 花巻町 宮沢賢治(封印)〆

    四月四日

宮沢賢治

高橋武治様

やどりぎありがたうございました。ほかへも頒けましたしうちでもいろいろに使ひました。あれがあったらうと思はれる春の山、仙人峠ヘ行く早瀬川の渓谷や赤羽根の上の緩やかな高原など、をいろいろ思ひうかべました。

お手紙もまことにありがたう。休みがなくてお出でになれないとのことは甚残念ですが、もう私も一日起きてゐて、またぞろ苗床をいぢり出したりしてゐますから、どうかご安心下さい。こんどはけれども半人前しかない百姓でもありませんから思ひ切って新らしい方面へ活路を拓きたいと思ひます。期して待って下さい。

あなたもどうか今の仕事を容易な軽いものに考へないであくまで慎み深く確かにやって行かれることを祈ります。

私も農学校の四年間がぽちばんやり甲斐のある時でした。但し終りのころわづかばかりの自分の才能に慢じてじつに虚傲な態度になってしまったことを悔いてももう及びません。しかもその頃はなほ私には生活の頂点でもあったのです。もう一度新らしい進路を開いて幾分でもみなさんのご厚意に酬いたいとばかり考へます。

オルガン奏法別便で送りました。病気以来手もふれませんでしたし病気もたうたう結核にはなりませんでしたが念のため充分消毒しましたから安心してお使ひ下さい。  まづは。