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[259] 1930年3月30日 菊池信一あて 封書

(表)弘前歩兵第卅一聯隊第九中隊第二班 菊池信一様
(裏)三月三十日 岩手県花巻町 宮沢賢治

    三月卅日

宮沢賢治

  菊池信一様

お手紙忙しいなかから書いて下すってまことにありがたう存じます。ご元気のお様子でまことに愉快です。すっかり暖かになりました。お蔭で私も起きてゐます。そしてまたこり性もなく苗床を人をたのんで拵えて貰ったりはじめました。結局山だちは山で果てるといふものでせうか。今年はこちらも大へん暖かで雪がなく、麦は今のところ非常にいゝやうですが、これからの十日が一寸心配です。早魅の掛念もありましたが、どうやら大丈夫さうです。弘前はこちらで考へると暗いところのやうな気もしますが案外陽気でせう。あなたのやうな人はどこへ出ても明るく進んで行けるものです。この夏は私の弟も三週間そちらへ行くでせう。弟が居たときは営舎と大石野とへ二度私も訪ねて行きました。

私の幸福を祈って下すってありがたう、が、人はまはりへの義理さへきちんと立つなら一番幸福です。私は今まで少し行き過ぎてゐたと思ひます。おからだお大切に。まづは。