目次へ  縦書き

[257a]  1930年3月6日 高橋忠治あて 封書

(表)花巻温泉遊園地 照井写真館内 高橋忠治様
(裏)花巻町豊沢町 宮沢賢治 (封印)ナシ

お手紙まことに嬉しく拝見しました。

昨年はまたわざわざお見舞下すって何とも有り難う存じます。お蔭 でいまはすっかりよく体温も三十七度以下脈も七十五以下になり半 日ぐらゐづつは起きてゐます。たゞ目方が十一貫しかないやうな訳 でそれもだんだん恢復するかと思ひます。まったくこの度はみなさ んのお蔭で命を拾ったやうな次第です。

たゞいまのお仕事兼々いかにもご適才と思ひます。いろいろご動静 なども会ふ人に尋ねたりしてゐました。どうか一つ立派に仕上げて 下さい。共立の連中に対する意地にも。次に昨年から一つお頼みし たいと思ってゐることがありますがやはり写真の方です。ご承知で せうが当地の菊の会の秋香会が今年からそちらの方の方々三十人ば かり加はり大へん大きくなりました。その賛助会員に女学校の中井 さんや画家の高橋さんなど入ってゐます。そこであなたにも一つは いってすけていたゞきたいといふのは展覧会のとき写真を四五枚と って実費で頒けていたゞきたいといふのです。勿論会費はありませ んしさりとてお礼もできませんでせうがご損は決して掛けません。 もしご承知でしたら私から云って来たが賛助会員入会の件承知の旨  東公園下蚕業取締所高橋広治氏まで葉書一枚ねがひます。尤もさ つ影はそちらの遊園地ででせう。もし又館主とのご都合などいけま せんでしたらご返事はいりません。あとで気の向いてご都合いゝと きまたおねがひいたします。

まづはご返事ながら勝手なおねがひまでいたしました。おからだ大 切に。

  三月六日

宮沢賢治

高橋忠治様