目次へ  縦書き

[252c] (日付不明 小笠原露あて) 下書(旧【不2、不4、不6】)

重ねてのお手紙拝見いたしました。独身主義をおやめになったとの お詞は勿論のことです。主義などといふから悪いですな。あの時と ても協会の犠牲になっていろいろ話の違ふとこへ出かけなければな らんといふ時でしたからそれよりは独身でも明るくといふ次第で事 実非常に特別な条件(私の場合は環境即ち肺病、中風、質屋など、 及び弱さ、)がなければとてもいけないやうです。一つ充分にご選 択になって、それから前の婚約のお方に完全な諒解をお求めになっ てご結婚なさいまし。どんなう事があっても信仰は断じてお棄てに ならぬやうに。いまに(数字分空白)科学がわれわれの信仰に届い て来ます。もひとつはより低い段階の信仰に陥らないことです。い ま欧羅巴が印度仕込みのそれで苦しんでゐるやうです。さて音楽の すきなものがそれのできる人と詩をつくるものがそれを好む人と遊 んでゐたいことは万々なのですがあなたにしろわたくしにしろいま はそんなことをしてゐられません。あゝいふ手紙は(よくお読みな さい)私の勝手でだけ書いたものではありません。前の手紙はあな たが外にお出でになるとき悪口のあった私との潔白をお示しになれ る為に書いたもので、あとのは正直に申しあげれば(この手紙を破 ってください)あなたがまだどこかに私みたいなやくざな者をあて にして前途を誤ると思ったからです。あなたが根子へ二度目におい でになったとき私が「もし私が今の条件で一身を投げ出してゐるの でなかったらあなたと結婚したかも知れないけれども、」と申しあ げたのが重々私の無考でした。あれはあなたが続けて三日手紙を (清澄な内容ながら)およこしになったので、これはこのまゝでは だんだん間違ひになるからいまのうちにはっきり申し上げで置かう と思ってしかも私の女々しい遠慮からあゝいふ修飾したことを云っ てしまったのです。その前后に申しあげた話をお考へください。今 度あの手紙を差しあげた一番の理由はあなたが夏から三べんも写真 をおよこしになったことです。あゝいふことは絶対なすってはいけ ません。もっとついでですからどんどん申しあげませう。あなたは 私を遠くからひどく買ひ被っておいでに