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[22](1916年9月5日) 保阪嘉内あて 葉書

  (表)甲斐国北巨摩郡駒井村 保阪嘉内様
     チゝブオガノ ケンヂ

熊谷の蓮生坊がたてし碑の旅はるばると泪あふれぬ。

武蔵の国熊谷宿に蠍座の淡々ひかりぬ九月の二日。

はるばるとこれは秩父の寄居町そら曇れるに毛虫を燃す火。

はるばると秩父のそらのしろぐもり河を越ゆれば円石の磧。

豆色の水をわたせるこのふねのましろきそらにうかび行くかな

つくづくと「粋なもやうの博多帯」荒川ぎしの片岩のいろ。

山かひの町の土蔵のうすうすと夕もやに暮れわれら歌へり。

荒川はいと若やかに歌ひ行き山なみなみは立秋の霧。

霧はれぬ分れてのれる三台のガタ馬車の屋根はひかり行くかな